ダンス / Dance
涼やかな背景と熱く肉踊る身体
概要
「ダンス」はアンリ・マティスによって制作された油彩作品。1909年版「ダンス(Ⅰ)」と1910年版「ダンス(Ⅱ)」の2作品が一般的によく知られています。ほかに「ダンス」を基盤にしたいくつかよく似た作品があります。ダンスを行う人物たちの構図は、ウィリアム・ブレイク1786年の水彩絵画「Oberon, Titania and Puck with fairies dancing" 」を基盤にしています。
習作となる「ダンス(Ⅰ)」
1909年3月にマティスは「ダンス(Ⅰ)」の習作を制作。全体的に淡いかんじで、ラフに描かれています。現在、MoMAにある大きくて人気の高い作品「ダンスⅠ」です。サイズは259.7cm×390.1cm。
「ダンス(Ⅰ)」はマティスの息子が運営するピエール・マティス画廊経由でニューヨークにわたり、その後、さまざまな人の手に移りながら、1963年にネルソン・ロックフェラーからMoMAに寄贈されることになりました。
ダンス(Ⅱ)
「ダンス(Ⅰ)」のあとに制作された、1910年版「ダンス(Ⅱ)」は、1909年にロシアの富裕コレクターのセルゲイ・シチューキンからの依頼によって制作された装飾パネル作品です。
モスクワにあるシチューキンのマンションの階段に飾るため2つの作品が依頼されました大サイズの装飾絵画を依頼されました。1つが本作「ダンス」で、もう1つはミュージック」です。大きさは260cm×391cmで、「ダンス(Ⅰ)」とほぼ同じです。
本作は1917年のロシア革命が勃発するまで、階段のところに「音楽」とともに飾られていました。現在はロシアのサンクトペテルブルクにあるエルミタージュ美術館が所蔵しています。
5人のダンスをする人物は赤色で力強く描かれ、対照的に背景はシンプルな緑とブルースカイで描かれています。当時マティスは、プリミティブ・アートに影響を受けており、芸術における初期衝動を反映したもので、古典的なフォービスムスタイルが採用されています。
涼やかな青と緑の背景の上に、対照的な激しい暖かい色とリズミカルなダンスをするヌードという構図は、抑圧された感情の解放や快楽主義を鑑賞者に伝えます。本作はロシアの作曲家イーゴリ・ストラヴィンスキーの有名ミュージカル作品『春の祭典』に現れる『少女のダンス』との関連が指摘されます。
手を繋いで輪になって踊っている人々をよくよく見ると、手前の二人の手が離れていることに気づきます。これはなぜでしょうか? 意図は明らかにされていませんが、鑑賞者をこのサークルに参加させる意図だと解釈されたり、緊張を帯びたかんじで「決断」や「覚悟」といった感情を表現していると解釈されることがあります。ただし、色の連なりを潰さないように、膝の部分で注意深く手が離れるよう描かれていることが分かります。
ダンスはマティスの芸術におけるキーポイントとなるモチーフです。