ウクライナのバンクシー作品
ウクライナにおける抵抗のシンボル
概要
3枚のスポーツの絵
2022年11月11日、バンクシーは自身のインスタグラムのアカウントに「ウクライナのボロディヤンカ」と書かれた3枚のストリート・アートの写真を投稿した。
ボロディヤンカは、2月24日の侵攻直後、ロシアによるウクライナへの砲撃で最も大きな被害を受けた場所の1つである。
ウクライナの首都キエフの北西約30マイル(48km)に位置するこの町は、戦争の初期段階でロシア兵に数週間にわたって占領され、最終的に4月にウクライナによって解放された。
町が奪還された後、BBCニュースの国際編集長でベテラン戦場記者であるジェレミー・ボーウェン氏は、ロシア軍のボロディナカへの砲撃によってもたらされた破壊は、彼が当時ウクライナで見た中で最悪だったと述べた。
1つ目の作品は、がれきの中で逆立ちしている体操選手の絵、2つ目の作品はロシアのプーチン大統領に焦点を当てたもので、柔道の試合でプーチンが子どもに投げ飛ばされる様子を描いている。この子どもは、ウクライナの抵抗のシンボルと解釈しても過言ではないだろう。
3つ目の作品は、イルピンの建物の側面にぽっかりと開いた穴の上で、首に装具をつけた女性新体操選手がリボンを使って演技をしているものである。
そのほかのウクライナにおけるアート作品
数日後、キーウをはじめウクライナのさまざまな都市で、複数のストリート・アート作品の制作した様子をリール動画としてインスタグラムにアップロードした。BGMにウクライナの民族音楽を歌う女性のサウンドトラックが使われている。
戦車の一部を使ったシーソーで遊ぶ子どもたち、爆撃された輸送トラック、風呂に入っている男性、ガスマスクをつけ消化器を持っている着流しの女性などが動画に映し出されている。
この映像には、アートを作成している男性の手も映っているが、真のバンクシー・スタイルでは、彼の姿は映ることはないため、複数の人で制作していると推測もされている。
これに対し、バンクシーのインスタグラムには、ウクライナ人からの感謝と連帯のメッセージが投稿されている。
慈善的な人道支援とヴァンダリズム
バンクシーは戦時中のウクライナ人支援に積極的に取り組んできた。3月には、売れた絵の利益をキーウのオクマットディト小児病院に寄付した。
また、Legacy of War Foundationと提携し、新たに50枚のネズミの版画作品を販売した。その収益は、危機に瀕した市民の避難や、ウクライナの恵まれない地域社会への暖房の提供などに当てられる予定だ。
文化や文化遺産の破壊(ヴァンダリズム)は、ウクライナでロシアが行った多くの犯罪とされるもの一部である。
2022年7月、ユネスコは宗教施設、博物館、歴史的建造物、文化活動専用の建物、モニュメント、図書館など164以上の文化遺産の被害を報告した。
慈善的な人道支援を目的とした盗難活動
作品の公開後、バンクシーの作品を撤去しようとした活動家グループが逮捕される事件が発生した。作品を切り抜き、それを競売にかけ、収益をウクライナ軍に寄付するつもりだったと話している。
ガスマスクをつけ消化器を持っている着流しの女性の作品で、キーウ郊外の爆撃を受けた建物の外壁に描かれおり、ウクライナ人の家庭生活に入り込む戦争を暗示している。
活動家の1人であるセルヘイ・ドビュイは、撤去作業を撮影し、その映像をネットにアップロードした。ドビュイによれば、これは一種のパフォーマンスでもあるという。
「ストリートアートは、ルーブル美術館の美術品とは対照的に、誰のものでもありません」と、ドビュイさんはニューヨークタイムズに語っている。
活動家たちは、ウクライナ軍が戦時中の資源を必要としていることが、パフォーマンスを正当化するものだと主張した。
「可能な限り資産化したかった」と述べ、「すべてのお金は人道的、軍事的目的に使われる」と話している。あるウクライナのディーラーは、作品は100万ドルもの価値があるのではないかと示唆した。
12月2日に壁画が撤去された直後、ウクライナの警察が現場に到着し、作品を没収し、ドビュイとその共犯者を拘束した。活動家はタイムズの取材に対し、器物損壊を扱う刑法の条文に違反した疑いで捜査中であると述べた。彼は起訴されていない。
■参考文献
・https://theconversation.com/banksy-in-ukraine-how-his-defiant-new-works-offer-hope-194952、2022年12月28日アクセス
・https://www.bbc.com/news/world-europe-63606658、2022年12月28日アクセス
・https://www.nytimes.com/2022/12/13/world/europe/banksy-ukraine-kyiv.html、2022年12月28日アクセス