シリア移民の息子 / The Son of a Migrant from Syria
ヨーロッパ移民危機シリーズ
概要
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『シリア移民の息子』は2015年に制作されたバンクシーの壁画作品。本作は留学移民としてアメリカに滞在していたシリア移民の息子のスティーブ・ジョブズを描いたものである。
ジョブズは黒いタートルネックにジーパン、丸メガネのいつものジョブズ・ファッションで、手にはオリジナルのマッキントッシュ・コンピュータと荷物を持って立っている。この造形は2006年に写真家のアルバート・ワトソンによって撮影された写真で、のちにウォルター・アイザックソンによる伝記『スティーブ・ジョブズ』のカバーとして使われていることでよく知られる。
2015年12月、バンクシーは移民危機をテーマにしたいくつかのグラフィティ作品を制作していることが明らかになっている。その中のひとつが本作である。
描かれた場所は、フランスのカレー近くの野営地「カレー・ジャングル」。この場所はイギリスへの入国を試みた移民が住んでいる場所である。シリア、アフガニスタン、エリトリア出身の約7000人の移民が、現在、フランスのカレー近くにあるジャングルと呼ばれる一時難民キャンプに滞在しており、多くの人がシリア内戦にともなう移民の増加に危機感を感じている。
バンクシーは作品についてこのようなコメントをしている。
「私たちは、移民達は自国のリソースを浪費させるものであると考えている。しかし、スティーブ・ジョブズはシリア移民の息子だった。アップルは世界で最も価値のある国で、一年間に70億ドル以上の税金を支払っており、それは元をたどればシリアのホムスからやって来た若い移民の男(ジョブズの父)の入国を許可したのが始まりではなかったか。」
カレー市は『シリア移民の息子』を含む周囲に描かれたそのほかのバンクシー作品を保護ガラスや透明プラスチックパネルで保存する意向を示した。市長のナターシャ・バーチャートは壁画は町にとって非常良いメッセージを持つ機会を与えたとコメントしている。
ほかにバンクシーは、テオドール・ジェリコーの絵画『メデューズ号の筏』をベースに高級ヨットに向かって手を降っているイカダ難民の絵画なども、このあたりで描いている。
バンクシーは、イギリスを拠点に活動しているアーティストで政治活動家。彼はこの1つ前のインスターレション作品「ディスマランド」は、その後、難民キャンプを建設するのに貢献している。
また、その前のガザ地区での壁画作品「廃墟と陽気な子猫」では、30もの国際支援団体が、バンクシーの行動にこたえてパレスチナの被災者の生活の再建と紛争問題の解決の進展の声明を出した。
芸術をもって世界政治を実際に動かすことができる数少ない現代アーティストである。