ポルト・リガトの聖母
The Madonna of Port Lligat
2種類存在するダリとガラの聖母子像
概要
「ポルト・リガトの聖母」は、サルバドール・ダリによって制作された絵画作品。作品のもとになっているのはピエロ・デッラ・フランチェスカ作「天使と六聖人と聖母子」です。また、全体を緻密な遠近法で仕上げルネサンスの宗教画のもつ荘厳な雰囲気を再現しています。
フランチェスカ作と構図やポーズもほぼ同じですが、ダリ作品はオブジェクト全体が分離され浮遊した状態になっています。
この頃のダリは、若い頃激しく反発したカトリック思想に回帰し始めた頃で、またその一方で科学(特に原子爆弾や原子構造)に関心を持ち始めた時期の作品です。宗教への回帰と科学信仰という矛盾した状態を頻繁に表現していました。「レダ・アトミカ」などが代表的です。
「ポルトリガトの聖母」は2作品ある
「ポルト・リガトの聖母」は2作品あります。
最初の作品は1948年に制作された49 x 37.5cmの作品で、これはアメリカ合衆国ウェスコシン州ミルウォーキーのマーケット大学博物館が所蔵しています。この作品は1949年11月23日にダリがローマ法王ピウス12世に謁見する際に持参したものです。
もうひとつは1950年に制作されたもの。同タイトル、同テーマで制作され、ポージングや描くモチーフが多少異なったものとなっています。大きさは275.3x 209.8cmで、日本の福岡市美術館が所蔵しています。1作目にくらべて拡大に巨大で完成に5ヶ月かかっています。あまりに巨大で展示の際にエレベーターや階段で運べなかったため、ロープを使って6階にあるカーステーアズ・ギャラリーに引き上げたそうです。
大きな違いはマリア像
1作目と2作目の大きな違いは、1作目が聖母マリアそのものを描いているのに対して、2作目はガラを聖母マリア化して描いていることです。
彼女の膝に座っているキリストは、両作ともダリをイメージしていると思われます。実はいうと1作目もガラを描こうとしていたのですが、謁見予定のローマ法王にとっては、極めて悪趣味で神を冒涜する行為にあたりそうだったので、ダリが法王を配慮して描き変えたものだと思われます。
両作とも中央絵に描かれているマリアの胸の部分が長方形に切り抜かれ、切り抜かれた部分にキリストが描かれています。しかし、2作目の方はキリストの胸の部分も切り抜りぬかれ、パンが描かれています。
ポルトリガトの生物が描かれている
背景はスペインのカタルーニャのポルト・リガトの海岸です。絵の中描かれている、魚、貝、卵といった食べ物や生物は、ダリやポルト・リガト地域と縁の深い食べ物のようです。
1作目の方にはウニが描かれていますが、2作目の方にはウニがなくなり代わりにサイが描かれているなど微妙な違いがあります。