ヴァンダリズム / Vandalism
破壊行為主義
概要
ヴァンダリズムは、公共または私有財産を故意に破壊する行動主義のこと。ゲルマニアから移民してきたヴァンダル人が独特の破壊的性格を持っていたことから、ヨーロッパの18世紀頃の啓蒙思想時代に使われるようになったのが、言葉のルーツとされている。
1794年に、ブロワの司祭アンリ・グレゴワールが初めて「ヴァンダリズム」という言葉を使用した。フランス革命に続く恐怖政治の時代に多数の宗教芸術や建築物が破壊されたが、これをグレゴワールはヴァンダル族の野蛮な破壊になぞらえて「ヴァンダリズム」と呼び、芸術や建築の保護を訴えた。
現在の定義では、
- オブジェクトそのものの破壊や損傷を目的とした敵対的行為。
- 他の目標(他者の財産の横領、妨害行為)を達成するための間接的な手段として行われる破壊行為。
- オブジェクトの破壊を通じて自己表現を行おうとする破壊衝動に駆られた行為。
などに分類される。また、ヴァンダリズムという言葉には、所有者の許可なしにあらゆる器物に対して直接行われるグラフィティや変造のような器物損壊罪の意味も含まれる。ヴァンダリズム自体は違法だが、現代の芸術や大衆文化においてヴァンダリズムは不可欠な要素にもなっている。
歴史
政治的価値と連動したヴァンダリズム
ヨーロッパでは、フランスの画家ギュスターヴ・クールベが1871年のパリ・コミューンでヴァンドーム広場の円柱を破壊したのが、おそらく第一次世界大戦中のダダイズムの以前に行われた最初の芸術的な文脈でのヴァンダリズムの1つとみなされている。当時、ヴァンドームの円柱は、退位したナポレオン3世の第二帝国の象徴と見なされ破壊された。
ギュスターヴ・クールベはヴァンドームの円柱の破壊に関して「ヴァンドームの柱は芸術的な価値のない記念碑であり、円柱はナポレオン帝国時代の戦争や征服の概念を想起させ、共和制国家の感情を否定もするのであり、市民であるクールベはパリ・コミューンの執行委員会から円柱の破壊の命を受けた」と宣言し、クールベは、政治的理由でヴァンドームの円柱の破壊を正当化し、その芸術的価値を下げた。
その後、クールベは芸術作品による伝えられた政治的価値が芸術的価値を中和させると考えた。
ヨーロッパ以外でもヴァンダリズムが歴史上多く見られる。明治政府による神仏分離令を発端とした廃仏毀釈、紅衛兵の文化大革命による宗教施設の破壊運動、タリバンによるバーミヤン石仏の爆破、ISILによるパルミラの破壊が代表的である。これらは、クールベと同じく政治的価値の否定と芸術的価値の否定が関連している。
1871年5月23日、同じくパリ・コミューンによりチュイルリー宮殿が破壊されると、哲学者フリードリッヒ・ニーチェは「文化との戦い」で文化について深く思想する。
ニーチェによれば、近代国民国家の確立は「国家」と「文化」を一体のものとみなすものである。「文化」とは「国家」であり、国家を破壊することは、その時代の文化を破壊し、また正義となると論じ、そうだとすれば何が正しい芸術なのか問いただし、ヴァンダリズムの意味を考えると、芸術の破壊は歴史や考古学を尊重する文化においてのみ意味がある行為であると考えている。
2019年香港抗議デモでも多数のヴァンダリズムが発生した。デモ隊は中国本土と関連のある企業の店舗に対して落書きをしたり、抗議ポスターを貼り付けるようになった。それはスターバックスであり、元気寿司であり、吉野家だった。中国銀行や、家電メーカーの小米科技(シャオミ)も襲撃された。
自己主張と連動したヴァンダリズム
グラフィック・デザイン
デフィッシングは、絵や写真に手書きの文字を上から落書きする行為で、多くのグラフィックデザイナーが使う手法の1つであるが、この方法はステファン・サグマイスターによるルー・リードのCDカバーなどが代表例だが、オリジナル作品の破壊行為と誤解されることもある。
改ざん手法(二次創作)のユニークな用途としてはジャン・トゥイトゥによるA.P.CのCDカバーがある。デザイナーがタイトル、ボリューム番号、日付を、プレプリントのブランクCDに自分の手書きで書いた。
この種の創造的なヴァンダリズムは、ライレティングやスケッチに限定されない。たとえば、スウェーデンのグラフィックによるMNWレコードのKPISTアルバム「Golden Coat」ではカバーに金のスプレー吹き付けられている。
これをヴァンダリムズと見なす場合があるが、ファンの中には演出・デザインとしてスプレーが吹き付けられた各カバーの独自性を高く評価するものもいる。