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【画集解説】山本タカト「キマイラの柩」

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平成耽美主義シリーズ最終形態

過去、現在、そして未来を象徴する第六画集


概要


「キマイラの柩」は山本タカトの第六作品集。2010年に2008年にエディション・トレヴィルより発行(発売:河出書房)。

 

肉体そのものが宿す荘厳なバロック的様式美の発見、マニエリスム的装飾美の追求、キャンバスほか新たな画材の採用等、幻想画家山本タカトの新生面を開示する意欲的作品群を収録。爛熟を極めた平成耽美主義による表題志向的作品群の集大成

 

<グロテスク><アラベスク>の画家山本タカトの過去、現在、そして未来を象徴する第6作品集!

 

本作品集を山本タカトは「平成耽美主義の集大成」と位置づけているように、過去作品集で描かれたさまざまな表題(ヘルマフロディトス、アリス、吸血鬼、双生児、環、江戸の怪奇譚、戦国時代)が現れる。また「キマイラの柩」から使用している画材やキャンバスが変化。そのため、これまでよりポップな色調になっている。

 

発展するヘルマフロディトス


「双児の薔薇」
「双児の薔薇」

目玉は前作の「ヘルマフロディトス」シリーズの延長にある作品群。ヘルマフロディトスは両性具有という意味。

第五集では、あくまで1つの身体に男性器と女性器が融合した両性具有者としてヘルマフロディトスは描かれていたが、今回は男女のおかっぱシャム双生児として描かれている。いまだ結合しているものの、男性の身体と女性の身体の分離が始まっているように感じるのが大きな違いである。

 

そして全体的にはシャム双生児の左右対称性にあわせるかのようにアラベスク的な幾何学模様が特徴である。

 

少し気になるのは「永劫回帰の扉」で、耽美な雰囲気のなかに違和感があるようにクマのぬいぐるみが描かれていることだ。

「永劫回帰の扉」
「永劫回帰の扉」

グロテスクからアール・ヌーヴォーへ


前回のような赤いヘルマフロディトゥス作品もかなりの点数が収録されているが、内臓、肉、血管といったグロテスクな印象は薄れ、アール・ヌーヴォー的な流線的装飾に変化、さらに画材の変化とあわせてこれまでよりポップ調に。「INNOCENCE」が代表的な作品だが、これは京極夏彦の「死ねばいいのに」の挿絵としても使われていることもあり、いつもより商業用に描いているのかもしれない。ほかに「思春期」などがある。

「思春期」
「思春期」

なお山本タカトの代名詞である「平成耽美主義」シリーズは、第六作品「キマイラの柩」をもって完結とされている。2015年に発売された「ネクロファンタスマゴリア ヴァニタス」はこれまでの平成耽美主義シリーズのオムニバス画集(プラス新作)であり、シリーズ最新画集とは少し異なる点に注意したい。平成耽美主義シリーズのまとめて見たいという初心者には「ネクロファンタスマゴリア ヴァニタス」をおすすめする。


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