高額美術作品の歴史
《モナ・リザ》が最も高額と推定されている
有名な美術作品、特に1803年以前の巨匠たちのマスターピース作品は一般的に美術館が保持している。美術館が所有している作品は一般市場に売り出されることがほとんどないため、それら作品については価格を付けることができない。
正確な価格はわからないがギネス世界記録では、レオナルド・ダ・ヴィンチの《モナリザ》が美術作品において最高の保険価値が付けられているという。
パリのルーブル美術館で常設展示されている《モナ・リザ》は、1962年に12月14日に1億ドルと査定された。インフレーションを考慮して2020年の価格で査定すると最低でも約8億6000万ドルになると推定されている。
以下に記載したランキングリストで、一番古い販売日は1987年3月に一般市場で売買され、安田火災海上(現・損保ジャパン日本興亜)が落札した、フィンセント・ヴァン・ゴッホの作品《ひまわり》だが、この作品は当時、2,475万ポンド(2020年価格だと約7010万ポンド)で落札された。
この売上価格、安田火災海上が落札した《ひまわり》は、それ以前のアートの売買記録の3倍以上の価格に達し、アート市場に新しい時代をもたらすきっかけとなった。
この作品以前の美術作品の最高価格は、1985年4月18日にロンドンのクリスティーズで、J・ポール・ゲッティ美術館が810万ポンド(2020年価格だと約1950万ポンド)落札したアンドレア・マンテーニャの《マギの礼拝》だった。
ドル・インフレーションを考慮する場合、1987年以前において最も高額な作品となるのは、1967年2月にワシントンD.C.のナショナル・ギャラリー・オブ・アートが、リヒテンシュタイン公家から購入したレオナルド・ダ・ヴィンチの《ジネーヴラ・デ・ベンチの肖像》である。これは当時500万ドルで落札されたが、2020年現在の価格に換算すると3,900万ドルである。
しかし、ファン・ゴッホの『ひまわり』の落札は、それまでアート市場を支配していた古典美術の巨匠と異なり「近代美術」の作品として初めて記録を更新したことがエポックメイキングだった。
例外的な売上記録は現代グラフィティ・アーティストのデビッド・チョーの作品で、設立間もないFacebookの本社にグラフィックアートをペインティングしたときに株式で支払いを受けた。当時、彼が所有していたFacebookの株はほとんど価値がなかったが、2012年のFacebookの株式公開後、彼の作品は株式換算で2億ドルの価値と査定された。
ゴッホ、ピカソ、ウォーホルが代表的な高額作家
フィンセント・ファン・ゴッホ、パブロ・ピカソ、アンディ・ウォーホルは高額ランキングに位置づける代表的な近代美術家である。
ピカソとウォーホルは生存中に売れっ子作家となり非常に裕福だったが、ファン・ゴッホは生前は印象派の女流画家のアンナ・ボックに400フラン(現在の価格で2000ドル)で売った作品《赤い葡萄畑》1枚しか売れず無名だった。
2019年までのインフレーションに合わせて価格調整を行った場合、以下のリストに記載されているゴッホの9枚の作品を合計すると約9億ドル以上になるといわれている。
最も高額な女性作家ジョージア・オキーフ
最も高額な女性画家はジョージア・オキーフである。2014年11月20日にサザビーズのオークションで、アメリカの水晶橋美術館が彼女の1932年の作品《Jimson Weed/White Flower No. 1》を4440万ドル(2020年価格だと4850万ドル)で落札した。
非欧米圏の高額作家
高額美術作品89点のうち、非欧米圏の美術家の作品は6点だけで、それらは伝統的な中国の美術家たちで、斉白石(1864-1957年)、吴彬、徐揚、王蒙(1308-1385年)の作品である。特に注目に値するのは斉白石の作品《12の風景画》で、2017年に1億4080万ドルで売買されている。
なお、リストには載っていないが、中国系フランス画家の趙無極の油彩作品《Juin-Octobre 1985》は2018年に6500万ドルで売買された。
個人間取引は秘密保持契約で公表されていない
なお、個人間の美術品の取引には公的に報告されるわけではないので、このリストは不完全であることに注意したい。
たとえば、2019年6月25日、アメリカの投資家J.トミウソン・ヒルは、カラヴァッジョの《ホロフェルネスの首を斬るユディト Ⅱ》(1607年)を、フランスのトゥールーズのオークションで競売にかけられる2日前に直接購入している。
個人売買の際には秘密保持契約が締結されていたため、実際の売買価格は公表されていない。なお、ルーヴル美術館が1億ユーロ(約1億2,000万ドル)で購入するつもりだったが、絵は1億1,000万ドルから1億7,000万ドルと見積もられ販売を断られている。
2021年時点の高額絵画ランキング
2021年現在、最も高額で取引された絵画は、2017年11月15日にニューヨークのクリスティーズで競売がかけられたレオナルド・ダ・ヴィンチの《サルバトール・ムンディ》の4億5000万ドルである。
続いて、2015年11月にデヴィッド・ゲフィンからケネス・C・グリフィンに個人間取引されたウィレム・デ・クーニングの《インターチェンジ》の3億ドル。ケネス・C・グリフィンは《ナンバー17A》も2億ドルでデヴィッド・ゲフィンから購入している。
また、2015年2月にルドルフ・シュテへリンからカタール王室(匿名とされている)に個人間で取引されたポール・ゴーギャンの《いつ結婚するの?》も3億ドルとみなされている。
カタール王室は2011年4月にギリシャの海運王、故ジョージ・エンブリコスからポール・セザンヌの《カード遊びをする人々》を2億7200万ドルで購入している。
1位:サルバトール・ムンディ
調整価格 | 4億7544万ドル |
元の価格 | 4億5030万ドル |
作品名 | サルバトール・ムンディ |
作者 | レオナルド・ダ・ヴィンチ |
制作年 |
1500年 |
売買日 |
2017年11月15日 |
売り手 | ドミトリー・リボロフレフ |
買い手 | アブダビ観光局(複数あり) |
オークション | クリスティーズ・ニューヨーク |
《サルバトール・ムンディ(救世主)》は1490年から1519年ごろにレオナルド・ダ・ヴィンチによって制作された油彩作品。世界の救世主としてイエス・キリストの肖像が描かれたもので「男性版モナリザ」と呼ばれることがある。ルネサンス風の青いローブを着用したキリストが右手を上げ指をクロスさせ、左手に水晶玉を持ち祝祷を行っている。(続きを読む)
2位:インターチェンジ
調整価格 | 3億2800万ドル |
元の価格 | 3億ドル |
作品名 | インターチェンジ |
作者 | ウィレム・デ・クーニング |
制作年 | 1955年 |
売買日 | 2015年9月 |
売り手 | デヴィッド・ゲフィン |
買い手 | ケネス・グリフィン |
オークション | プライベート・セール |
《インターチェンジ》は1955年にウィレム・デ・クーニングによって制作された油彩作品。2015年にデヴィッド・ゲフィン財団が、アメリカのヘッジファンドマネージャーであるケネス・グリフィンへ個人間取引で3億ドルで売却したことで、2015年当時、最も高額な油彩作品として記録を更新した。現在は作品はシカゴ美術館に貸出し展示が行われている。(続きを読む)
3位:カード遊びをする人々
調整価格 | 2億8800万ドル |
元の価格 | 2億5000万ドル |
作品名 | カード遊びをする人々 |
作者 | ポール・セザンヌ |
制作年 | 1892〜93年 |
売買日 | 2011年4月 |
売り手 | ジョルジュ・エンビリコス |
買い手 | カタール王室 |
オークション | プライベート・セール |
《カード遊びをする人々》は1894年から1895年にかけてポール・セザンヌによって制作された油彩作品。「最後の時代」と呼ばれる1890年代初頭のスザンヌ晩年のシリーズ内の作品。2011年にはカタール王室が《カード遊びをする人々》の1点(最後の作品)を2億5000万ドルから3億ドルで購入した。(続きを読む)
4位:いつ結婚するの?
《いつ結婚するの》は1892年のポール・ゴーギャンによって制作された油彩作品。約半世紀の間スイスのバーゼル市立美術館へ実業家でコレクターだったルドルフ・シュテヘリンが貸し出していたが、2015年2月にカタール王室のシェイカ・アル・マヤッサに約3億ドルで売却。世界で最も高額に取引された美術の1つである。(続きを読む)
5位:Number 17A
調整価格 | 2億1180万ドル |
元の価格 | 2億ドル |
作品名 | Number 17A |
作者 | ジャクソン・ポロック |
制作年 | 1948年 |
売買日 | 2015年9月 |
売り手 | デヴィッド・ゲフィン |
買い手 | ケネス・グリフィン |
オークション | プライベート・セール |
《Number 17A》は1948年にジャクソン・ポロックによって制作された作品。絵具缶から絵具を直接滴らせるドリッピ・ペインティングと呼ばれる方法で描かれており、本作はポロックのドリッピングシリーズのなかでも初期の作品にあたる。(続きを読む)
6位:水蛇Ⅱ
《水蛇Ⅱ》は1904年にグスタフ・クリムトによって制作された油彩作品。80 x 145 cm。ロシアの実業家ドミトリー・リボロフレフが、2013年にスイスの画商イブ・ブヴィエから1億8380万ドルで購入した作品で、現在個人蔵扱いとなっている。(続きを読む)
7位:ナンバー6(すみれ、緑、赤)
調整価格 | 2億300万ドル |
元の価格 | 1億8600万ドル |
作品名 | ナンバー6(すみれ、緑、赤) |
作者 | マーク・ロスコ |
制作年 | 1951年 |
売買日 | 2014年8月 |
売り手 | クリスチャン・ムエックス |
買い手 | ドミトリー・リボロフレフ |
オークション | プライベート・セール(イブ・ブヴィエ経由) |
《No.6(すみれ、緑、赤)》は1951年にマーク・ロスコによって制作された油彩作品。抽象表現主義作品のカラーフィールド・ペインティングとみなされている。《No.6》はこの時期のロスコのほかの作品と同じように、全体的に不均衡でかすみがかった薄暗い色味で描かれている。(続きを読む)
8位:マーティン・スールマンズとオーペン・コピットのペンダント肖像画
調整価格 | 1億9700万ドル |
元の価格 | 1億8000万ドル |
作品名 | マーティン・スールマンズとオーペン・コピットのペンダント肖像画 |
作者 | レンブラント・ファン・レイン |
制作年 | 1634年 |
売買日 | 2015年9月 |
売り手 | エリック・デ・ロスチャイルド |
買い手 | アムステルダム国立美術館とルーブル美術館 |
オークション | プライベート・セール |
9位:アルジェの女
《アルジェの女》は1954年から55年の冬にかけてパブロ・ピカソによって制作された油彩作品。1954年から1963年の間にピカソは古典巨匠のオマージュとなる連作をいくつか制作している。2015年5月11日にニューヨークのクリスティーズで競売にかけられ、約1億7900万ドル(約215億円)で落札された。(続きを読む)
10位:赤いヌード
調整価格 | 1億8610万ドル |
元の価格 | 1億7000万ドル |
作品名 | 赤いヌード |
作者 | アマデオ・モディリアーニ |
制作年 | 1917-1918年 |
売買日 | 2015年11月9日 |
売り手 | ジャンニ・マッティオリ |
買い手 | 劉益謙 |
オークション | クリスティーズ・ニューヨーク |
《赤いヌード》は1917年にアメディオ・モディリアーニよって制作された油彩作品。モディリアーニの代表作で最もよく複製され、また展示されている作品の1つ。2015年11月9日のニューヨーク・クリスティーズで約1億7000万ドルで落札され、これまでのモディリアーニ作品では最高価格を記録した。購入者は中国の実業家である刘益谦(Liu Yiqian)。(続きを読む)
11位:ナンバー5(1948)
調整価格 | 1億7970万ドル |
元の価格 | 1億4000万ドル |
作品名 |
ナンバー5(1948) |
作者 | ジャクソン・ポロック |
制作年 | 1948年 |
売買日 | 2006年11月2日 |
売り手 | デビッド・グリフィン |
買い手 | デイビット・マルティネス |
オークション | プライベート・セール(サザビーズ) |
12位:女性 3
調整価格 | 1億7650万ドル |
元の価格 | 1億3750万ドル |
作品名 | |
作者 | ウィレム・デ・クーニング |
制作年 | 1951-1953年 |
売買日 | 2006年11月18日 |
売り手 | デビッド・グリフィン |
買い手 | スティーブン・A・コーヘン |
オークション | プライベート・セール(ガゴシアン) |
《女性 3》は1953年にウィレム・デ・クーニングによって制作された油彩作品。デ・クーニングの1951年から1953年に制作された女性を主題としたシリーズ6作品の1つ。2006年11月に、デビッド・グリフィンがスティーブン・A・コーヘンに1億3750万ドルで売り払った。(続きを読む)
13位:マスターピース
調整価格 | 1億7420万ドル |
元の価格 | 1億6500万ドル |
作品名 | |
作者 | ロイ・リキテンスタイン |
制作年 | 1962年 |
売買日 | 2017年1月 |
売り手 | アグネス・ガンド |
買い手 | スティーブン・A・コーヘン |
オークション | プライベート・セール |
《マスターピース》は1962年にロイ・リキテンスタインによって制作された作品。ベンデイ・ドット技法やフキダシが使われている。その後のリヒテンシュタインの成功を予言した物語的内容で知られている。2017年にアメリカのコレクターでMoMA PS1董事長であるアグネス・ガンドが、1億6500万ドルで著名コレクターのスティーブン・A・コーエンに個人間取引で売却。(続きを読む)
14位:アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像 I
調整価格 | 1億7330万ドル |
元の価格 | 1億3500万ドル |
作品名 | |
作者 | グスタフ・クリムト |
制作年 | 1907年 |
売買日 | 2006年6月18日 |
売り手 | マリア・アルトマン |
買い手 | ロナルド・ローダー |
オークション | プライベート・セール(クリスティーズ) |
《アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像 I》は1907年にグスタフ・クリムトによって制作された油彩作品。金が多用されている。クリムトによるブロッホ=バウアーの全身像は二作存在するが、これは最初の作品で、クリムトの「黄金時代」後期における最も完成度の高い作品である。2006年6月に156億円でエスティ・ローダー社社長(当時)のロナルド・ローダーに売却され、現在はニューヨークのノイエ・ギャラリーが所蔵している。(続きを読む)
15位:夢
「夢」は1932年にパブロ・ピカソによって制作された油彩作品。130×97cm。当時のピカソは50歳。描かれている女性は22歳の愛人マリー・テレーズ・ウォルター。1932年1月24日の午後のひとときを描いたものである。シュルレアリスムと初期のフォーヴィスムが融合した作風。(続きを読む)
■参考文献
・List of most expensive paintings - Wikipedia、2021年12月1日アクセス