キュビスム / Cubism
複数の視点から対象を描く
概要
キュビスムとは
キュビスムは、ヨーロッパの絵画や彫刻において革命をもたらし、また音楽、文学、建築などさまざまな分野に影響を与えた20世紀初頭の前衛芸術運である。20世紀において最も影響力のある芸術運動とみなされている。
ジョルジュ・ブラックとパブロ・ピカソがキュビスムの創立者であり、キュビスムという言葉そのものは、1908年のサロン・ドートンヌに持ち込まれたブラックの作品を審査したアンリ・マティスが、そこに登場する角張った家や木を見て"キュブ”(立方体)と呼んだことが起源とされている。ただし、キュビスム作品自体は、前年の1907年に発表したピカソの『アヴィニョンの娘』が起源とされている。
ピカソ、ブラックに影響を受けて、のちにジャン・メッツァンジェ、アンドレ・ロート、フェルナンド・レジェ、ロベルト・ドローネー、アルバート・グレーズ、ジャック・ヴィヨンらがキュビスムに参加。彼らは第2世代キュビスムに属し、キュビスムの理論を強化し、一般庶民への広めた。
キュビスム創立に特に影響を与えたのはポール・セザンヌの後期作品に見られる三次元形式の表現である。キュビスム作品の基本的な描画方法は、対象となるオブジェクトは分析された上、解体され、抽象的な形で再構成される。再構成される際にあたり、これまでの絵画のように単一方向の視点から描くのではなく、複数の視点から対象を描くことで、より大きな文脈から主題を多数の視点から描写する。キュビスムは「分析的キュビズム」と「総合的キュビズム」という2つのタイプ、段階にわけられる。
キュビスムは多様性を生み出す、世界中に広がり派生し発展した点で、多様性が特徴の芸術運動の先行者だった。キュビスムを起源として派生したおもな芸術運動は、フランスではオルフィスム、セクションドール、ピュリスム、抽象芸術全般である。海外では未来派、シュプレマティスム、ダダイスム、構成主義、デ・ステイル、アール・デコなどに影響を与えた。
分析的キュビスム
分析的キュビスムは、ある立体が小さな切子面にいったん分解され、再構成された絵画である。「自然の中のすべての形態を円筒、球、円錐で処理する」というポール・セザンヌの言葉をヒントに、明暗法や遠近法を使わない立体表現を発展させた。
セザンヌの晩年の作品「サント・ヴィクトワール山」では、自然の形態をいくつもの小さな面の集積と見て、これを積み重ねることで対象を再現するというよりも構成するというものだった。
キュビスム表現により多面的な視覚効果が可能となり、それは万華鏡的をのぞいた時の感じに近いともいえるが、キュビスムにはシンメトリーや幾何学模様のような法則性はない。
総合的キュビスム
総合的キュビズムは、文字、新聞の切り抜き、木目を印刷した壁紙、あるいは額縁代わりに使われたロープなど、本来の絵とは異質の、それも日常的な、身近な世界にあるものが画面に導入される。
こうした技法はコラージュ、それが紙の場合はパピエ・コレと呼ばれる。まったくそれぞれ関係のなさそうな断片をうまくつなぎあわせて新しい対象を創造しようとした。また、アッサンブラージュの先駆けともいえる。
マルセル・デュシャンの「階段を降りる裸体.No2」
マルセル・デュシャンの「階段を降りる裸体.No2」は、人物が降りる動作を連続写真のように重ねることで、時間を多面的に表現したキュビスムの発展形である。