オークションハウスはもはや芸術界だけに関わらず、視聴者たちはYouTube、Instagram、TikTokなどに殺到して、1%の富裕層がどのように入札するかを見物するようになっています。アートオークションのライブ中継は世界中で何百万もの視聴者を引き寄せ、また広告主も引きつけています。そして、オークションハウスは、一般の人々が時計、ハンドバッグ、ジュエリーなどの低価格アイテムを購入することを期待しています。

サザビーズとクリスティーズは、新しいオークションセールを開幕するにあたり、技術専門家、プロデューサー、ショーディレクターのチームを結成させ、まるでTV局のようなスタジオのオークションハウスの準備を進めています。

サザビーズとクリスティーズのオークションハウスは、これまでコレクターやディーラーのために用意していた座席を約30％縮小し、その代わりに動くビデオカメラ、LEDスクリーン、専門の照明を備えたスペースを増設しました。

また、テレビ局のように、プロデューサーやディレクターが滞在するコントロールルームを増設し、セールスルーム内のあらゆるカメラアングルから現場を監視しています。

カメラはオークショニアだけでなく、オークションを主導する電話入札者の列にも向けられます。電話入札者担当は、ロンドン、香港、ドーハなど世界中のクライアントに対して入札競争時のアドバイスを提供します。

クリスティーズの最高マーケティング担当者であるギリアン・ゴーマン・ラウンドは、「ライブストリームは入落札時のエネルギーを捉えることができる」と述べています。

TV局化するオークションハウスの目的は、美術業界とそのV.I.P.クライアントの利益だけでなく、今やYouTube、TikTok、Facebook、Instagram Liveなどのソーシャルメディアサイトや独自のウェブサイトを通じて、何百万人もの一般視聴者に向けた演出です。

人々は1%の富裕層がどのようにお金を使っているかに興味津々だからです。

オークションのTV局化は、パンデミック中のビジネスの手段から始まりました。2020年のパンデミックのシャットダウン中、オークションハウスはライブストリームのセールを大幅に拡充しました。

クリスティーズによれば、パンデミック中に初めて行われたクリスティーズのオークションのライブストリームは約10万人の視聴者を引き寄せました。2020年7月のセールでは、わずか1台のカメラで撮影されたシンプルなプロダクションでした。しかし、実質的に現在はブロードウェイショー並みになっています。

当初は、感染予防対策だったものの今や新しい見世物エンターテインメントとなりました。

「20年前、人々はオークションハウスの扉をくぐるにはエリートクラブのメンバーでなければならないと思っていた」と、クリスティーズのグローバルプライベートセール責任者であり、同社の主要なオークショニアの一人であるアドリアン・メイヤーが振り返ります。

「今や、あなたは自分のソファやパンツ姿でセールを見ることができます。」

多くのバイヤーはまだセールに出席していますが、オークションフロアの上のスカイボックスから観戦する者もいます。しかし、オンライン視聴は、典型的な主要なオークションの3時間という時間をセールルームで座って過ごすことを単に望まない人々に訴えています。

両社とも、より多くの大規模なコレクターが直接オークションハウスに来ることは少なく、代わりにハイライトを自宅でオンラインで見ることを好んでいると認めています。

「これは慎重な時代です」と、世界の主要なコレクションのいくつかをまとめるのに助けを提供してきたベテランのアートアドバイザーであるサンディ・ヘラーは述べています。「自分のiPadで家でセールを見る以上に慎重なことはありません。」

ヘッジファンドの億万長者でメッツのオーナーであるスティーブン・A・コーエンのような経験豊富なオークション参加者でさえ、「これらのセールをオンラインで見ることができると、確かに生活が楽になります」と述べています。

 その後、大手の3つのオークションハウスは制作会社を雇い、さらなるチャンネルを追加し、これらのイベントをサザビーズのスチュワートが「必見のテレビ」と呼ぶようなものに変え、NBCの有名な広告キャッチを借りています。

小規模で専門的なオークションハウスであるフィリップスはセールルームを縮小していませんが、それでも彼らも大規模なオークションをYouTube、Facebook、Twitter、Instagram、LinkedIn、そして中国ではWeChat、Weibo、Redで提供しています。

オークションのオンライン視聴の人気は、どこでも専門家たちを驚かせました。2022年5月から2023年5月までの間に、クリスティーズのオークションの視聴回数は25％増加し、370万から460万に上昇し、現在は10台のカメラでイベントを捉えています（これらの数字には後でYouTubeでオークションを見る人々は含まれていません）。

クリスティーズ・アメリカの社長であるボニー・ブレナンは、「これらの数字を予想していませんでした。これはソーシャルメディアの力です」と述べています。

オンラインで視聴している大多数の人々は、芸術に何百万ものお金をかける可能性は低いでしょう。また、入札するためにはオークションハウスに登録する必要があります。

しかし、多くの人が最終的にサザビーズやクリスティーズのウェブサイトを閲覧し、時計、ハンドバッグ、ジュエリーなど他の価格帯のアイテムを購入する可能性があります。「私たちは贅沢なアイテムをアートへの入り口と見なしています」とブレナンは付け加えました。「これはアクセスの民主化の一環です。」

彼女はまた、実際のバイヤーの数は一定のままでありながら、「彼らの購入方法は大きく変わり、世界中のオンラインチャンネルからの入札の80％が来ている」と述べました。サザビーズは2022年に入札の91％がオンラインで実行されたと報告しています。

オンラインのバイヤーは、一般のコレクターよりも若い傾向があります。「彼らはこれらのデジタルツールが効果的であるという自信を持ち、よりコントロールができると感じています」とブレナンは説明しました。もう一つの大きな変化は、絵画やオブジェクトを見ずに入札し、そしてしばしば購入するコレクターの数です。

3年前、サザビーズは3つの都市でソーシャルディスタンスを保った入札者を対象にしたセールを試験的に行いました。アジアのコレクターが、画家フランシス・ベーコンの三連作を見ずに7000万ドル以上で入札しました。（最終的には非公開の電話入札者に8460万ドルで売れました。サザビーズによれば、落札者は絵画を見ていたとのことです。）

オークションハウスは、高度なテクノロジーがバイヤーに、作品を実際に見なくてもそれらを取得する自信を与えていると述べています。

不動産会社や家具店で使用されているようなコンピューターソフトウェアは、潜在的な入札者に、特定の作品が暖炉の上や玄関ホールに掛かったときのリビングルームの様子を仮想的に示すことができます。

クリスティーズは、寄付家アン・バスの遺産から売られたドガの『リトル・ダンサー』の彫刻の際に、作品を移動させるにはあまりにも危険だったため、専門家たちはそれを仮想的に見せました。それは4160万ドルで売れました。

アートアドバイザーのヘラーは、「これらのセールが非常に高度に制作されていることを考慮すると、クライアントは単にストリーミングするだけで、それが行われる部屋にいるよりもはるかに良い体験をすることができます」と述べています。

テレビ番組のように、サザビーズには広告主もいます。「サムスンと提携している」というフレーズは、サザビーズのオークションルーム、ウェブサイトやプロモーションビデオで見ることができます。(家電大手は非公開の定額料金を支払います)。

クリスティーズは、同じ種類の広告がないと言っていますが、パンデミックの間、その男性の競売人はブリオーニのスーツを着て、女性はアレキサンダー・マックイーンを着ていた。どちらのファッションハウスも、クリスティーズを所有する持株会社であるアルテミスグループの一部であるケリングが所有しています。

 これほど多くの観客がいて、かつ多くがかかっている場合、サザビーズのオークショニアはもはやアドリブをほとんど行いません。編集チームが今では主要なセールの原稿を書き、各芸術作品の簡潔な説明がテレプロンプターに表示されます。

「テレプロンプターと話すことで、よりスムーズで、よりプロフェッショナルになります」と、サザビーズのヨーロッパ議長であり、スターのオークショニアの一人であるオリバー・バーカーが説明しています。

オークショニアは今やセールスルームと電話入札者だけでなく、オンラインからも入札を受け付けており、それはかつてよりも遥かに難しいプロセスになっています。（クリスティーズのオークショニアも同じ複雑さを抱えていますが、セールスルームの発表にテレプロンプターを使用し、実際のオークションには使用していません。）

また、カメラでオークショニアや電話入札者の列が見えるようになったため、プロのヘアメイクの専門家も手元にいます。

スーパーボウルパーティがスポーツの視聴者を盛り上げるように、オークションパーティも人気を集めています。オンラインのファンたちも会話を楽しむことが好まれています。

9月6日の夜、サザビーズのロンドンのセールスルームには約300人のコレクターとファンが集まり、オリバー・バーカーがガベルを振るう中で、故イギリスの歌手および作詞家フレディ・マーキュリーの芸術作品、オブジェ、エフェメラ、衣装の最初のオークションが行われました。

その後の数日間にわたり、サザビーズによれば、TikTokでのセールの視聴回数は約950万回に達しました。最終的に5040万ドルを集めたこのコレクションは、新しいオンライン愛好者のコミュニティを生み出しました。

「すごい！」「これらを見るのが好き…まるで自分に2ペニーでもあるかのように。」といったコメントが寄せられました。

入札が激しくなり数字が上昇するにつれ、感情も高まりました。

「ここに座って豆とトーストを食べている。電気代が高すぎて、食べるか暖房かの選択を迫られている。この世界が嫌になる。」

別のコメントでは、このセールを「金持ちの卑猥な見世物」と表現しました。

■参考文献

・https://www.nytimes.com/2023/11/06/arts/design/art-auctions-.html,2023年11月13日アクセス