丸尾末広インタビュー5
リアルタイムで虜になる
(出典元:ガロ1993年 5月号)
-「無抵抗都市」はまた丁寧にかいてますね。
丸尾:漫画を書くのは久しぶりだったからね。でも今回はパクリあったかなあ。タイトルが「無防備都市」から「無抵抗都市」だね(笑)。なんかさ、パクっているとさ、自分で考えたものでも「これ、パクったんじゃないかなあ」って気になってくるよ(笑)。でもそれでいいんじゃないかな。
-あれは戦後の焼け野原が舞台になってますね。
丸尾:そう、ほんの一ヶ月くらいの間のことを描こうと思っているんだけどね。
-あの辺の時代って興味あるんですか?
丸尾:うん、あるね。見たことないけどさ、なんか風景も人間もゴチャゴチャしてて闇市とか露店とかあってさ。全体的な雰囲気に魅力を感じるよね。
-どこかの時代に戻れるとしたら、やっぱりその時代がいいですかね。
丸尾:いやっ、もう1つ前の大正時代がいいね。別に思想なんてないんだけどね。モダンな時代だったから風景も人も面白いんじゃないかなってただそれだけ(笑)。都会の風景ね。田舎はあまり興味がないから。田舎だと横溝正史になっちゃうからね。
-八ツ墓村とか(笑)
丸尾:八つ墓村なんていやじゃない(笑)
-丸尾さて思想とかそういうものじゃなくって感覚の方が大きいですよね。
丸尾:そうなんだよね。ビジュアル的なものが大きいから、読む方もあまり考える必要はないんだよ。
-そういったビジュアル的なものに高校生あたりの年代は結構敏感ですから丸尾さんの漫画は高校生、とくに女子高生に圧倒的な人気がありますよね(笑)。
丸尾:そういうとさ「信じられない」って言う人がいるんだよね。メジャー誌の編集者とかそういう人は信じられないみたい。その辺の感覚ってずれているよね。俺の読者はつげ義春さんの読者と同じ人達だと思っているみたいよ。実際には全然違うでしょ。
-でもそういった若いファンが次々と出てくるでしょ。ファンにとって丸尾さんの漫画っていつでもリアルタイムなんですよね。
丸尾:そういうところはるかもね。卒業して行く人がいて、でも下からどんどん入学してくるみたいな(笑)
-大繁盛じゃないですか(笑)。やはり10代後半に好きになる絵なんですよ。なんか懐古的で危ないような、独占欲をかりたたせるような雰囲気がありますからね。興味を持ち出すととことんのめりこんでしまうじゃないですか。それに加えて絵に魅力がありますから。
丸尾:まあ、絵のほうは努力してるからね(笑)。でもこれから先、どうなって行くのだろうね。自分でもあんまり考えてないしさ。どうしようかなあ。この生活が一生続くのかな(笑)。まっ、いつかは漫画もやめるだろうね。
-でも絵の方はやめないんじゃないですか。
丸尾:うん、そうだね。なにきゃらなきゃいけないし。でもとりあえず自分の好きなことやって飯が食えるんだからいいんだよね(笑)
-今もすでに、半分は画家みたいなもんじゃないですか。
丸尾:うん、漫画の注文とかはあまり多い方じゃないからね。
-まあ、雑誌はある程度限定されちゃいますからね。ジャンプなんかに載るようなタイプではないし。
丸尾:あっ、でも俺十代の頃ジャンプに持ち込んだことあったよ。だめだったけどね(笑)。
-家族は漫画を描いていることは知っているんですよね。
丸尾:知っているけどね。たまーに帰ったりするとさ、一応こっちも気をつかって何か喋るんだけどシーンとしちゃってものすごくしらけるの(大爆笑)。俺の漫画の話なんか誰も触れようとしないしさ。禁句になってるんだよ。だめだよねもう。
-一応単行本は送ってるんですね。
丸尾:うん、イヤミでね(大爆笑)。