愛の歌 / Love Song
ギリシア彫刻、ゴム手袋、緑のボール、闇の汽車、青い空……
概要
「愛の歌」は、1914年にジョルジョ・デ・キリコによって制作された油彩作品。73cm×59.1cm。ニューヨーク近代美術館が所蔵。キリコ作品の中で最も有名なものの1つであり、形而上絵画の代表的作品。「愛の歌」は1914年にニューヨークで初めて展示され、1922年にパリのポール・ギリアムギャラリーで展示されました。
この絵に並列されているオブジェは、直接的には互いに何の関係もないものである。ただ絵を描いているキリコにとっては、心の中に浮かんでいることをそのままキャンバスに描いているので、個人的なつながりはあると思われます。
「愛の歌」で描かれているのは古代ギリシア彫像の頭、ゴム手袋、緑のボール、暗闇に包まれた列車とそれと対照的な青空です。不安や憂鬱の空気が漂うキリコの人型造形、空虚感のある古代建築物、謎めいた通路、そして不気味に長い道路は、第一次世界大戦によって引き裂かれた世界の不条理性をよびおこします。
古代彫刻の頭部は、フランスの考古学者サロモン・レイナッの著作「古代ギリシャ彫刻」の本にあるアポロン彫刻の写真をコピーしたものであるのが分かっています。汽車はキリコの子供時代の風景を象徴するもの、アーケード建築はイタリアの街です。
手袋はキリコが敬愛していたティツィアーノの絵からの引用と考えられていますが、ほかに錬金術を手がけた手を暗示することもあるようです。ボールは「完璧性」を象徴しています。
キリコはこのような、互いに何の関連もないオブジェを並列させるスタイルを形而上絵画と呼んだ。このキリコの作風はシュルレアリスムの先駆的作品の1つであり、のちにブルトンやダリを多くのシュルレアリストに多大な影響を与えています。
特にルネ・マグリットに影響を与えており、マグリットは1920年代初頭に初めてこの作品を見たとき、涙が溢れて止まらなかったといいいます。のちにマグリットはこの互いになんら関連のないオブジェの並列、デペイズマン手法を利用しますが、原点はキリコにありました。