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【美術解説】ストリート・アート「非認可の公共芸術作品」

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ストリート・アート / Street art

非認可の公共芸術作品


※1:Bleeps.gr『星とヒトデ』
※1:Bleeps.gr『星とヒトデ』

概要


ストリート・アートは公共的な場所で制作された視覚芸術で、伝統的な美術館やギャラリーなどの会場の外で展示された非認可の公共芸術作品のこと。「グラフィティ(落書き、いたずら書き)」と同じ扱いとみなされている。

 

しかし、これらの芸術様式は芸術業界において「独立公共芸術」、「ネオ・グラフィティ」、「ポスト・グラフィティ」と呼ばれることもあり、アーバン・アートやゲリラ芸術と関わりが深いと認識されている。

 

ストリート・アートで使用される一般的な芸術様式やメディウムは、スプレー・ペイント、落書き、ステンシル、違法ビラ、ステッカーアート、ストリート・インスタレーション、彫刻である。

 

21世紀になるとこれらの表現形式のほかに、ライブ・パフォーマンスとそれをスマホやウェブサービスで配信する動画を利用したストリート・アートや、ヤーン・ボーミングと呼ばれる毛糸で覆われた彫刻も増えている。

代表的なストリート・アーティスト


●アメリカ

・アンドレ・チャールズ

ジャン=ミシェル・バスキア

キース・ヘリング

・クランドスティーナ・カルチャー

・クロー・マネー

シェパード・フェアリー

・ティム・コンロン

・ビューティフル・エンジェル

・フェデリコ・アーチュレッタ

・フューチュラ2000

・マーク・ジェンキンス

ミスター・ブレインウォッシュ

・ラメルジー

・レディ・アイコ

・レディ・ピンク

・ロビー・コナル

・AVANT

・Avoid pi

・B.N.E.

・Borf

 

●イギリス

・アンディー・カウンシル

インキー

・カットアップ

・カートレイン

・ゴーストボーイ

・ジェームズ・コックラン

・シックボーイ

・ジャッファ

ニック・ウォーカー

バンクシー

・フェイド

・ボム・スクワッド

ロバート・デル・ナジャ

・Zボーイズ

 

●フランス

・アッシュ

・アンドレ

インベーダー

・エル・シード

・ジェフ・アエロソル

・ゼウス

・ダルコ

・ティエリー・ノワール

ブレック・ル・ラット

ミス・ヴァン

・ミス・ティック

・C215

・JR

 

●香港

・曾灶財

 

 

背景


ストリート・アートは建物、路上、電車、そのほか一般の人々の目に付く公共の場所で展示される芸術形態の1つである。作品の多くはゲリラ的な手法で描かれ、また描かれた作品は芸術家が居住している地域社会と関連のある公的な声明を含んでいることが多い。

 

もともとストリート・アートは単なる落書きや公共物の破壊行為に過ぎなかったが、しだいに芸術家のメッセージを伝えるスタイル、または単純に人々に美を見せるスタイル移り変わっていった。

 

ストリート・アートを行う基本的な動機は、ギャラリーやほかの場所よりも公共空間を利用したほうがより多くの不特定多数の人々に自身の作品を見てもらえるというメリットである。

 

また、一般庶民に対して社会的問題や政治的問題への関心を高める方法「スマート・バンダリズム(柔らかな破壊行為)」としてストリート・アートを利用する芸術家もいる。

 

ほかに、単純に都市空間そのものを個人的な作品を表現するための新しいメディアとみなして利用するものや、公共の空間に非合法な芸術作品をリスクを楽しむ事に価値を見出すものもいる。

 

ストリート・アートにおける伝統的な制作方法はおもにスプレー・ペイントである。そのほかにはLEDアート、モザイクタイル、ステンシル、ステッカー、リバース・グラフィティなどさまざまな手法が存在する。

 

絵画以外にもロックオン彫刻、ストリート・インスタレーション、ウィートペースティング、ウッドブロッキング、ヤーン・ボー民具、ロック・バランシングなどさまざまなメディウムを利用した表現がある。とりわけ最近流行っているのは大都市の建物へ作品を映写させるといった新しい手法である。現在は安価なハードウェアやソフトウェアが手に入るようになったこともあり、ストリート・アートは街の企業広告と競争力を高めるまでになっている。

 

ストリート・アートのようなスタイルを「独立公共芸術」という言葉を使う人もおり、この定義では鑑賞者が訪れないような遠隔地にある作品も含まれる。森の中で行われる一時的な着色煙の芸術や、ロック・バランシングのような積み重ねた岩のオブジェクトなどが代表例である。水中に設置される作品もある。

※2:森の中に設置されたロック・バランシング作品。
※2:森の中に設置されたロック・バランシング作品。

ストリート・アートの歴史


第二次世界大戦時の「キルロイ参上」


政治的または社会的抗議のスローガンを公共の壁に描くグラフィティ(落書き)行為は、現代のグラフィティやストリート・アートの以前から存在する継続した芸術の1つのジャンルである。

 

企業のアイコンのようなシンプルで象徴的なグラフィックの形をしたストリート・アートはその時代や地域の謎めいた象徴となることがある。

 

たとえば、第二次世界大戦時に作られたグラフィティ「キルロイ参上」はそのような初期グラフィティの1つである。「キルロイ参上」は棚の後ろからのぞき見する長い鼻の男のドローイングで、第二次世界大戦のころにアメリカの各所で見られた。作者は不明だが、アメリカ軍の軍人が配備先や野営地などの壁または適当なところに書いた落書きが広まったとも言われている。

※3:ワシントンD.C.の第二次世界大戦記念碑に見られるキルロイ参上の落書き
※3:ワシントンD.C.の第二次世界大戦記念碑に見られるキルロイ参上の落書き

戦後ニューヨーク・アンダーグラウンド


現代のストリート・アートと直接関係のあるグラフィティは、戦後のニューヨークのアンダーグラウンドシーンで発生したグラフィティ・ムーブメントにある。

 

1960年代の黎明期、1970年代の成熟期、1980年代のブロンクスを中心としたスプレー塗装車や地下鉄の壁へのグラフィティをピークとした一連のストリート・アートの流れが、一般的に歴史化されている。

 

1980年代の初頭ころ、これまでテキストベースだったグラフィティ作品は、リチャード・ハンブルトンの影絵のような視覚的でコンセプト性の高いストリート・アートに変わりはじめる。この時代の代表的なグラフィティは、キース・ヘリングの地下鉄広告グラフィティやジャン=ミシェル・バスキアのSAMOのタグなどがある。

 

ただし、美術史において「ストリート・アート」として現在認知されているものは、当時まだ研究対象とされていなかった。また、このころにステンシルなどさまざまなグラフィティが登場し、分派がはじまった。

 

ロック・バンドがクラブやライブハウスで演奏際の告知として利用するポスター・アートは、しだいにコピー・アートや現実的なアートワークへと発展し、1980年代には世界中の都市で見られる一般的な光景となった。

 

1980年から1984年にかけてニューヨークで活動していたアーティスト集団「AVANT」もこの時代のアーティストだった。AVANTは紙の上に何千ものアクリル絵画を作成し、それらを漆喰を塗って街中の壁、ドア、バス停、ギャラリーに絵を描いていた。

※4:80年代ニューヨークにおけるAVANTのストリート・アート。
※4:80年代ニューヨークにおけるAVANTのストリート・アート。

グラフィティの聖地バワリー・ウォール


ニューヨークのハウストン・ストリートやバワリーの壁は、1970年代からストリート・アーティストたちのキャンバスになりはじめた。この場所はグラフィティ・アーティストたちが自由に使った廃棄された壁として、「バワリー・ウォール」と呼ばれる歴史性を持つ壁となっている。

 

キース・ヘリングは1982年に彼自身でこの壁を自身の作品でのっとったことがある。ヘリングのあと、著名ストリート・アーティストも続いて絵を描き出し、壁は徐々に有名になっていった。2008年ころから壁は個人が管理するようになり、委託または招待制でのみでないと芸術家は利用できないようになっている。

 

ニューヨークで活動している日本人ストリート・アーティスト、レデイ・アイコもこの壁に絵を描いたことがある。

 

※5:レディ・アイコによるグラフィティ
※5:レディ・アイコによるグラフィティ

レナ・モンカダの壁画シリーズ「I AM THE BEST ARTIST」 は、1970年代後半にソーホーのストリートに現れはじめた。ルネはアート・コミュニティを軽蔑するかのように壁画を描きはじめたが、アート・ワールドは当初ルネの作品は無視していた。

 

その後、「芸術への挑発」の初期行為として認められるようになり、それらの壁画はアメリカ合衆国憲法修正第1条や表現の自由、知的所有権などに関する法的紛争で話題となった。

 

いたるところに偏在する壁画もまた観光客や美大生の注目を集めて、よく写真撮影されることにより、評価が高まりはじめた。

※6:レナ・モンカダ「I AM THE BEST ARTIST」
※6:レナ・モンカダ「I AM THE BEST ARTIST」

アンダーグラウンドから商業主義への転向


キース・ヘリングの商業的成功


ストリート・アーティストの中には国際的な注目を集めて、アンダーグラウンドの世界からメインストリームの美術業界へ完全に移行するものと、アンダーグラウンドのまま制作を続けるものがいる。キース・ヘリングジャン=ミシェル・バスキアなどが前者で、バンクシーは後者である。

 

キース・ヘリングは1980年代の初期ストリート・アート運動の1人だったが、企業と契約を交わし、伝統的なグラフィティやストリート・アートで使われるモチーフをメインストリームの広告に取り入れ、商業主義へ転向した。

 

ヘリング作品の商業販売についてたずねられた際、「少し絵を描くだけで価格が上がるが、商業主義は私が地下鉄で絵を描いていたことの延長線上であり、ハイアートとロウアートの境界線を破壊しているとおもう」と話している。 

 

ヘリングの活躍後、次第に多くのストリート・アーティストが企業と契約を結び、グラフィックデザイナーとなった。エリック・ヘイズはビースティ・ボーイズやパブリック・エナミーなどのミュージシャンらとコラボレーションを行い、フォントやグラフィックデザインを提供している。

 

シェパード・フェアリーが大統領選挙戦で自主的に制作したバラク・オバマの応援ポスターは、実際に大統領選挙戦で使用されることになり、特別に依頼を受けて修正されたものが利用された。また、『Time』誌の表紙のために制作されたバージョンも存在する。

 

ストリート・アーティストが独自の販売チャネルを作ることも珍しくない。

※7:シェパード・フェアリー『Hope』
※7:シェパード・フェアリー『Hope』

ヨーロッパでは重要な観光スポットに


ストリート・アートは、美術の1ジャンルととして認識されるようになり、またバンクシーをはじめとするさまざまなアーティストの知名度が高まりとともに、一般の人々にも受け入れられるようになった。

 

多くのヨーロッパの都市でストリート・アートは観光スポットの1つとして扱われるようになる。ベルリン、ロンドン、パリ、ハンブルグなどの都市では一年中、観光旅行者用のためのストリート・アートの世界を楽しめるツアーが開催されている。

 

地元のストリート・アートのツアーに同行して、ストリート・アートの知識や共有したり、制作背景となるアイデアや、タグの意味や、グラフィック作品に描かかれたメッセージを説明するストリート・アーティストもいる。ロンドンだけでも観光客向けに10種類のツアー・プランが用意されている。

 

ガイドの多くは、作品の展示方法としてストリート・アートという手法を発見した美大の卒業生またはほかのクリエイティブ関係の専門家である。

 

このような商業的観点で、彼らは一般の人々にストリート・アートの世界への参加を促し、またストリート・アートの由来を深めることに貢献している。また、一般市民のストリート・アートに関心を持つことで、スラム地帯だった場所が高級化(ジェントリフィケーション)したとも言われている。

※8:以前のベルリン、ミッテ区のストリートアート
※8:以前のベルリン、ミッテ区のストリートアート
※8:ジェントリフィケーション現象でスタジオとして再生化した建物。
※8:ジェントリフィケーション現象でスタジオとして再生化した建物。

合法性と倫理性


ストリート・アートには独自の法的問題が発生し、そこにはアーティスト、市や政府、指定受信者、作品が描かれた建築物や媒体のオーナーが当事者として含まれる。

 

問題のよい一例は、2014年にイギリスのブリストルの事件のバンクシー作品である。バンクシーが2014年に公共の戸口の合板上に描いた「モバイル・ラバーズ」は、その後、市によって取り外され、ボーイズクラブの資金集めのために売る予定だった。しかし、市政府が作品の美術的価値から没収し美術館に保存することになった。

 

この場合、所有権と公共財産との問題、不法侵入と破壊行為の法的問題が絡み合ってくる。結果として法的、道徳的、倫理的問題の発生を提示した。

グラフィティとストリート・アートの違い


メッセージの発信先の違い


グラフィティの特徴は、ありふれた風景内で暗喩的な方法を使って自分たちのグループ、またはコミュニティ内でしか理解できない言葉で構成されていることである。基本的には公共空間に自らの「名前」を拡散的に書き残していく行為である。グラフィティの仲間内でいかに自分の「名前」の有名性を競うかが焦点となる。

 

一方、ストリート・アートは、メッセージを伝えることを目的とした「シンボル」「イメージ」「イラストレーション」が含まれていることである。「名前」をかくことに限られない。ストリート・アートの明確な特徴の1つは、所有者の許可なしに、または所有者の意向に反して、公共の場所で作品が展示されることであり、これはグラフィティの特徴と一緒である。

 

グラフィティもストリート・アートも鑑賞者にメッセージを表現したり、伝えたりすることは共通しているが、両者の違いの1つは特定の鑑賞者に向けて発信しているかどうかである。

 

特定の人にしかわからないグラフィティと異なり、ストリート・アートは公共の場所で不特定多数の人たちから脚光を浴びるかのように描かれることが多く、通常、だれが見ても理解できる内容となっている

 

 「ストリート・アート」という用語はこれまで、さまざまなほぼ同じ意味ではあるが、異なる言葉で説明されてきた。その1つが「ゲリラ・アート」という言葉である。ゲリラ・アートもストリート・アートも路上や公園、市街地、公共施設などで無許可のまま突発的に行なわれる表現活動である。

世界のストリート・アート


ストリート・アートは世界中に存在している。世界の大都市と地方の都市は、ある種のストリート・アートコミュニティの本拠地であり、そこから先駆的なアーティストや新しいメディウムやテクニックが生まれている。国際的に認知されているストリート・アーティストがそのような場所を往来し、作品を宣伝して展示している。

アジア


●香港

2019-2020年の香港抗議デモは、香港一帯に多数のストリート・アートを引き起こした。このアートがほかのストリート・アートと明らかに異なる点は、香港で発生した抗議デモとその内容をより多くの人に知ってもらうための戦術的芸術の1つであること。

 

ストリート・アートと同じく政治的メッセージが強く伴うが、個人を主張するような傾向は見られず、代表的な芸術家は存在しない。抗議デモ自体が、以前の運動と比較して「リーザー不在の運動」としての特徴が強く、そのためスローガンやシンボルの多くは、匿名で自発的につくられ拡散されたものである。

 

また、ストリートだけでなくネット上で作られたあとにストリートへ拡散しているという新しい側面がある。運動の各段階に、さまざな絵描きたちにより印象的な場面やフレーズをイラスト化したイメージが作成され、SNSや掲示板、そしてレノン・ウォールに転載された。

 

このような抗議芸術を制作した芸術家は共通で「宣伝グループ(中国語:文宣組)」と呼ばれ、ほとんどのメンバーは匿名で活動している。(2019−2020年香港抗議デモ芸術の詳細を読む

 

●韓国

韓国で二番目に大きな都市の釜山では、ドイツの画家Ecbが70メートル(230フィート)以上の壁画を作成し、2012年8月の制作時ではアジアで最も大きなストリート・アートとみなされている。この作品は韓国のソウルで設立された現代美術の組織パブリック・デリバリーが企画した。

香港のレノン・ウォール
香港のレノン・ウォール



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