表現主義 / Expressionism
感情を優先した筆致が特徴の前衛美術
概要
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表現主義とは、20世紀初頭に北欧で流行した詩や絵画を中心とした近代美術運動。
表現主義の典型的な特徴は、主観的な視点から世界を知覚し、感情的な表現を伝えるために形態を極端にゆがめていること。
表現主義のアーティストは、写真のような現実ではなく、感情的な表現を鑑賞者に伝えようとしていた。実証主義や自然主義、印象派などの芸術様式に対する反動とみなされている。
表現主義は、第一次世界大戦前に前衛的な様式として発展した。特にドイツ、ワイマール共和国時代にベルリンで人気を博し、そのムーブメントは建築、絵画、文学、演劇、ダンス、映画、音楽など、芸術の広い範囲に及んだ。
日本の美術史では「表現主義」を「ドイツ表現主義」として紹介することが多いが、「ドイツ表現主義」という言葉は存在しない。「表現主義(Expressionism)」が正しい言葉である。
歴史的には、マティアス・グリューネヴァルトやエル・グレコなど、かなり古い画家も表現主義と見なされるが、この言葉はおもに20世紀の美術作品に適用されることが多い。
ドイツの表現主義
表現主義とは、一般的に20世紀初頭に起こったドイツの表現主義のことを指す場合が多い。その特徴は、内面的、感情的、精神的なものなど「目に見えない」ものを主観的に強調する様式である。
表現主義は、写実主義に対抗するように見えるが、実際は目に見える外側の世界だけを描いた印象派と対立するように生まれている。
ドイツの表現主義は、北ドイツのドレスデン、後にベルリンに拠点を置いた「ブリュッケ(橋)」グループと、南ドイツのミュンヘンに拠点をおいた「青騎士」グループに二分されるが、広義的には後期印象派のゴッホやムンクの不安や恐怖を表現した絵画も含むこともある。
ドイツの表現主義は第一次世界大戦終了後も残り、ワイマール共和国、特にベルリンにおいて建築、文学、映画、ダンス、音楽など他のさまざまなジャンルに拡大・発展したのがフォービスムやほかの表現主義と大きく異なる。
ブリュッケ
1905年にドレスデンで結成されたグループ「ブリュッケ(橋)」には、エルンスト・ルードヴィヒ・キルヒナーやエミール・ノルデ、ヘッケル、ペヒシュタインなどが参加。
「ブリュッケ」の画家たちの特徴は、革新的情熱である。混迷する現代芸術に彼らなりに警鐘を鳴らし、未来の芸術への架け橋(ブリッジ)となるような芸術を創造するという理念があった。
そのため、社会意識が作品に反映されている。フランスの表現主義であるフォービスムに希薄で、ドイツのブリュッケに根強いものとしては、市民社会に対する批判的、挑戦的な姿勢である。
ヌード画にしても、単純なエロティシズム表現ではなく「自然との共生」を謳うかのように、草地や湖で戯れ憩う男女のヌード絵画が登場することも珍しくない。
キルヒナーの「モーリッツブルクの水浴者たち」がブリュッケの代表的な作品である。
青騎士
青騎士グループは、1911年の暮にミュンヘンで結成された。青騎士とは青い色と騎士が好きだったことに由来する。のメンバーはロシアからやってきた ワシリー・カンディンスキー、ガブリエーレ・ミュンタラー、フランツ・マルク、アウグスト・マッケの4人であった。
青騎士の芸術は、プリミティブ芸術と子どもの絵に対して熱狂的な関心を示していることが特徴である。カンディンスキーとならんでこのグループの中心となったマルクの作品「大きな青い馬」や「動物の運命」などが代表的なものである。
自然の中の動物を描いた絵であるが、それらは伝統的な動物画の域を超えて、力強い生命力、神秘的な気高さ、滅びゆくものの悲劇的な運命、大自然と動物との宇宙的な連鎖などをかんじさせる。
青騎士の活動自体はブリュッケに比べると少ないものの、カンディンスキーやマルクなど、属していたメンバーたちの構成などを見ると、その果たした歴史的役割から言えば「青騎士」はおそらく「ブリュッケ」より重要といえる。
●参考文献
・増補新装 カラー版 20世紀の美術
・すぐわかる20世紀の美術―フォーヴィスムからコンセプチュアル・アートまで