2040年:グローバルな富裕層とアートコレクションの変化の影響
美術館やオークション市場では、多様性を追求する動きが顕著になっています。コレクションの見直しが行われ、教科書も書き換えが行われています。オークション市場では、女性アーティストやアフリカ系アメリカ人アーティストの作品が増え、世界の富裕層や超富裕層の構成も変化し、女性の役割がさらに重要になりつつあります。これらの変化は、アート市場のトレンドにどのような影響を与えるでしょうか?
美術館におけるコレクションの見直し
ロンドンのテート・モダンやニューヨーク近代美術館などの美術館では、近年、近代および現代のコレクションが大幅に見直しが行われはじめています。
非公式ながら強力なアートの教科書の書き換えは、国際的なアート・シーンで活躍する専門家たちにとっては周知の事実となっています。
具体的にどのような書き換えが行われいるのでしょうか?
教科書の書き換えを行われている美術館では、女性、有色人種、欧米のヘゲモニーから外れたアーティスト、LGBTQ+の視点を持つアーティストによる作品が展示される機会が大幅に増えています。
オークション市場での変化
同じような変化がオークション市場にも現れており、2022年に落札された現代美術作品のうち、女性アーティストの作品が2018年の2倍となる4分の1を占めるようになりました。
アフリカ系アメリカ人アーティストのスタンリー・ホイットニー、ラシッド・ジョンソン、シモーヌ・リーらも、人気や評価が高まっています。
また、オークションで入札する人々の構成も変わりつつあります。北米人が最大のグループ(45%)を占め、ヨーロッパ人(32%)が続いているのは変わらないものの、アジア人の入札者数は2018年から2022年の間に40%急増し、昨年は100万ドル以上の現代美術の入札の18%がアジア人によるものでした。
さらに、入札者の年齢層も若くなっており、ミレニアル世代が100万ドル以上のコンテンポラリーアートの落札額のほぼ5分の1(17%)を占めています。
2030年には、超富裕層(5,000万米ドル以上の資産を持つ人々)の上位5か国が、米国、中国、ドイツ、英国、カナダになると予想されています。
また、富裕層(100万ドル以上の資産を持つ人々)の上位国は、米国、中国、ドイツ、英国、フランスがトップになるでしょう。
これらの国々では、今後10年間で超富裕層と富裕層の数が2倍になると予想されており、それぞれの国はすでに美術市場を確立しています。
2040年までに台頭する女性アートシーン
一方で、男女の賃金格差は今後さらに縮小する見込みです。女性の賃金上昇に伴い、高級品や高額商品市場における女性の役割がますます重要になるでしょう。
2040年までに、女性の可処分所得が最も高い国として、米国、中国、スイス、ノルウェー、オーストラリアが上位5カ国に入ると予測されています。
これは、アート市場や女性アーティストの文化的および経済的ランキングにとって、女性コレクターからの支持が増えるという意味で、良い兆候となります。
アジア・太平洋地域がアートの中心に
地理的に見て、アジア太平洋地域は今後「世界最大の消費者市場」に発展し、アジアの消費者は「消費財やサービスに対する世界的な需要を形成する主要なトレンドセッター」としての役割が増していくでしょう。
現在のデータに基づくと、少なくとも近い将来において、アジアの入札者が西洋のアート市場のトレンドに従う可能性が最も高いとされています。
日本は、女性の社会進出に遅れをとっており、賃金格差が依然として大きな問題となっています。世界経済フォーラムが2022年7月に公表した男女格差を測るジェンダー・ギャップでは、順位は146か国中116位(前回は156か国中120位)でした。先進国の中で最低レベル、アジア諸国の中で韓国や中国、ASEAN諸国より低い結果となりました。
さらに、人口減少と経済の縮小が続く中で、日本の美術が世界の美術から取り残され、転落の危機に直面していると言わざるを得ません。今後もこの状況が続くと、日本の美術は世界の舞台での存在感を失い、取り残されていくでしょう。
■参考文献
・https://www.sothebys.com/en/articles/the-changing-nature-of-the-1m-art-market?locale=en、2023年3月18日アクセス