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キャロリー・シュニーマン

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キャロリー・シュニーマン / Carolee Schneemann

閉鎖的な性に関する既成概念への挑戦


概要


キャロリー・シュニーマン(1939年10月12日〜)はアメリカの美術家。ボディ・パフォーマンス・アーティスト。性やジェンダーを主題とした表現を行う。バード大学卒業後、イリノイ大学で美術博士号を取得。

 

シュニーマンの作品はおもに社会体との関係における個々の身体、タブー、視覚的な伝承を探求することを特徴としている。自分の月経の血を身体に付着させたり、生きている蛇を裸体に這わせるなどの過激なパフォーマンスで有名になった。フェミニズムを踏まえたパフォーマンス・アートの先駆けといえる。彼女と同じ系統にマリーナ・アブラモヴィッチミロ・モアレがいる。

 

ロサンゼルス現代美術館やニューヨーク近代美術館、ロンドン国立映画劇場などで彼女の作品を鑑賞できる。美術史においてシャニューマンは、フルクサス、ネオダダ、パフォーマンスアート、ビート・ジェネレーション、ハプニング、フェミニズムの文脈に位置づけられている。


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プリカソ

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プリカソ / Pricasso

ペニスや金玉を筆代わりにして描く芸術家


概要


プリカソ(1949年生まれ)はオーストラリアの画家。ペニス、金玉、尻をブラシ代わりにしてポートレイト、風景画、女性ヌードを描くことで知られる。本名はティム・パッチ。

 

プリカソのポートレイト作品はアート・ワールドにおいて最も挑戦的で、20分以内にペニス、金玉、尻を使って似顔絵を描くことを目標としているという。プリカソ(Pricasso)という名前は「Picasso(ピカソ)」と「prick(ペニスの俗語)」から由来している。

 

ほとんどのギャラリーは彼の作品に興味を示さない一方で、オーストラリアやロンドンなどで開催されているアダルトエンタテイメント産業が集まる『SEXPO』では、常に世界中から注目を集めており、会場では参加者の似顔絵をペニスを使って描いている。

 

風刺的な政治家ポートレイト作品も人気が高い。これまでバラク・オバマ、ジョージ・W・ブッシュ、エリザベス2世、最近ではドナルド・トランプのポートレイトを制作して話題を呼んだ。

 

プリカソはロンドンで生まれ、チチェスター地区のオークウッド準学校、ワイト島のベンブリッジ学校を卒業。その後、プリカソはポーツマス大学とウエスト・オブ・イングランド王立芸術院に入学するも美術学士を取得できず、家具デザイン学部へ進み、その後、ボディ・ビルダーになった。

 

1977年にイギリスからオーストラリアに移動。1978年から1982年までさまざまなギャラリーで気彫りを中心とした展示を行う。1984年に姉と「ヘルフィア陶器」という会社を設立して、さまざまな陶芸作品を販売。ペニスを使って絵を描き始めのは2005年から。陰茎人形劇を見て影響を受けたのがきっかけだという。


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【作品解説】サルバドール・ダリ「大自慰者」

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大自慰者 / The Great Masturbator

性に対する恐怖と欲望の葛藤


「大自慰者」(1929年)
「大自慰者」(1929年)

概要


「大自慰者」は、1929年にサルバドール・ダリによって制作された油彩作品です。「記憶の固執」とともにダリの初期作品の代表作とみなされています。作品は現在、スペインのマドリードにある国立ソフィア王妃芸術センターに所蔵されています。

岩はダリの自画像


中央に描かれている下を向いて目を閉じた顔はダリの横顔です。この横顔はダリの故郷カタルーニャのポルトリガトの海岸にあるゴツゴツした自然岩のようです。ダリは自画像を岩を同一視して描いています。ダリは、ポルトリガト海岸に点在する不思議な岩からインスピレーションを得て、作品を創造していました。

 

 

また、この自画像は2年後の1931年に制作された「記憶の固執」で中央に描かれている白い生物と同じものです。「記憶の固執」の方の自画像は岩だではなく、白い柔らかい物体になっています。またその後、1954年に制作された「記憶の固執の崩壊」ではゼラチン状になっています。

ガラとの出会いと自慰


この作品が描かれた1929年は、以後、生涯のパートナーとなるガラと出会った年です。岩の頭の後ろ側にある横向きの女性像はガラの顔なんです。頭にガラがくっついているのは、そのタイトル「大自慰者」が示すとおり、ダリがガラを想って自慰を表現しているといわれています。芸術における自慰表現はクリムトやデュシャンなどいろんなところで出てきます。

 

性的恐怖と去勢


ガラの顔の先にあるのがダリの下半身です。これはダリはガラにフェラチオをしてもらっている状態です。ダリの太ももは硬直している。初体験だから緊張しているわけです。

 

そして、太ももには血が流れています。女性であれば分かりますが男性が血を流すのはちょっと分からない。これは去勢恐怖を暗示しているようです。 男性における去勢とはエディプス・コンプレックスのことですね。ダリはジグムント・フロイトの影響が大きいので、無意識的な去勢不安と性的不安があります。ダリと父親との葛藤を表現しています。

 

性的不安要素はこの画面のいたるところで暗喩しています。

たとえばダリの顔にはイナゴがとまっています。イナゴ恐怖症だったダリは、非常にパニックになっている状態を表すときにいつもイナゴを使って表現しているのです。

 

顔にたかるアリもダリの表現としておなじみです。「記憶の固執」や「アンダルシアの犬」までダリの作品に多く登場するモチーフで、アリはダリにとって「死」や「減退」を象徴するものなんです。

 

この絵は、ダリのセックスに対する深刻な恐怖心と欲望との葛藤を表現している。なぜならダリは子どものとき、父親から性教育としてたくさんの梅毒を患っている写真を見せられたため、性に対する恐怖心が刷り込まれているのです。性病にかかってグロテスクに損傷した性器はダリのトラウマとなったといいます。

 

ガラによって性的不安は解消された


しかしこの絵画は死だけを表現しているわけではありません。「生」も表現されています。

 

背景には二人の人物と一人の人物が描かれ、卵が配置されている。卵もダリのトレードマーク。ダリ美術館の屋根にもたくさんのっています、ダリにとって卵は率直に「生」を象徴するものです。

 

 

ボッシュの「悦楽の園」が元ネタ


 なお、「記憶の固執」などたびたびダリ登場する大自慰者ですが、よく比較されるのがヒロニエム・ボスの「悦楽の園」です。この作品の左側の岩の絵が大自慰者によく似ている。

ヒロニエム・ボッシュ「悦楽の園」
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そのほかのダリ作品

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茹でたインゲン豆のある柔らかい構造
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アンダルシアの犬
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壱岐紀仁インタビュー201601

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無名の監督がクラウドファンディングで360万の調達に成功するまで

映画「ねぼけ」監督 壱岐紀仁インタビュー


クラウドファンディングで自分のやりたい事をプレゼンしてお金を集める機会が増えている。しかし、実績もない無名の作家がそう簡単に資金調達できるのか疑問に思っている人も多いはず。そこで、2014年に目標金額を大きく上回る360万以上の制作費の調達に成功した新人映画監督・壱岐紀仁さんに、ファンディング成功の秘訣を聞いてみた。(山田太郎)

壱岐紀仁とは


壱岐 紀仁 (いき のりひと)/監督

1980年、宮崎県生。ディレクター、カメラマン。武蔵野美術大学映像学科卒、多摩美術大学修士課程修了。(株)東北新社 Cm演出部に入社、2007年同社を退社後、写真家として活動を開始。瀬々敬久監督作品「へヴンズ・ストーリー」にスタッフとして参加後、映画制作を志す。初の監督作となる映画「ねぼけ」の制作費をクラウドファンディングで調達して話題になる。


映画「ねぼけ」

うだつの上がらない落語家と取り戻せない過去に生きる真海の愛と葛藤の群像劇。クラウンドファンディングによる大規模な資金調達に成功して話題に。第39回モントリオール世界映画祭正式出品作品。新宿ケイズシネマにて、2016年12月17日(土)より劇場公開。

公式サイト:http://neboke.info


クラウドファンディング映画と商業映画のちがいとは?


商業映画は出資額と同額以上のリターンが必要


 クラウドファンディング映画と商業映画の明確な線引きがあるわけではないですが、僕の感覚では「出資者」「制作費用」という部分に集約されていくのではないかと思います。

 

まず、商業映画は制作費用が自主制作映画と桁違いに違います。スタッフの数が大勢のため、制作費が何千万から何億という単位に膨らみます。何千万、何億という桁の制作費になってくると、出資者は企業にならざるをえなくなるわけです。

 

出資単位が大きすぎるから、出資側は回収する必要が出てきます。出資した企業の社員の生活に影響してくるレベルの金額です。最低限、黒字にしないといけない。1億出したら1億以上回収しないと赤字になってしまう。つまり、商業映画の場合は出資額と同額以上のリターンが肝になるのですね。それは、もはや企業投資です。

 

「映画内容の良さ」や「監督の熱意」よりも、ビジネスとして投資対象として魅力かどうかが商業映画における出資判断になる。その場合、投資の重要な要素はコンテンツやスタッフの知名度になるのです。知名度は作品保証になるわけです。この漫画はすでに読者が一万人いるから、この程度の客入りは見込めるとか。

 

だから、商業映画で保証のないオリジナルコンテンツを作るのは難しいです。オリジナルコンテンツで制作する場合は監督や俳優の知名度に関わってきます。カンヌ映画祭やアカデミー賞で受賞しているかどうかとか。

クラウドファンディング映画は「夢を見させる」こと


それに対して、「ねぼけ」のようなクラウドファンディング形式の自主制作映画だと、商業映画に比べるとはるかに低予算になります。出資規模は一口500円程度のものから始まります。そういう小規模な額の場合、個人にとって投資を検討しやすい対象になります。だから、出資者は実際のところ投資金額同等のリターンを求めているわけではなかったりします。

 

クラウンドファンディングの出資者は「夢を見たい」と思って出資して下さっているのだと僕は考えています。 「自分もこのプロジェクトに参加して楽しんでいる」という気持ちを喚起させることが、とても重要になってくるんです。自分が応援したプロジェクトがどんどん大きくなっていく。映画制作者と一緒に夢を見るようなムード作りを出資者は楽しみたいと思っているのではないでしょうか。

 

クラウドファンディングにおいて、身内と全く関係ない知らない人が投資してくれる額の平均は5000円から1万円ですが、この額はやはり投資というよりも“ご祝儀”の意味合いが強いと思います。5000円のご祝儀をもって、応援している映画が世に羽ばたいていく夢をそばで見たいと思うわけです。このご祝儀を出すと、このプロジェクトはどんなにワクワクさせてくれるのかなと。

 

「ねぼけ」のファンドの中心は落語が好きな40代から50代の男性でした。知っている落語家が出演していて、実際に制作が進んでいて、最終的には劇場公開に至る、もしかしたら大入りするか!? 外国の映画祭で受賞するんじゃないか!? こういったワクワクするような夢を想像させる企画であることが重要になるんです。

 

商業映画とクラウドファンディング映画の違いは、ここに集約されてくるのではないでしょうか。

映画『ねぼけ』の制作費のクラウドファンディング企画は2013年10月にMoyionGalleryにて開始。約1年半かけて2度ファンディング企画を行われ、両企画あわせて360万以上の資金調達に成功した。
映画『ねぼけ』の制作費のクラウドファンディング企画は2013年10月にMoyionGalleryにて開始。約1年半かけて2度ファンディング企画を行われ、両企画あわせて360万以上の資金調達に成功した。

クラウドファンディング出資者の制作環境への干渉はなし


商業映画の場合はもちろん外部からの干渉はあります。制作側もそこに気を使います。商業映画の場合は、お金を出している人が一番強い。特にハリウッド映画の場合が顕著ですけど、編集決定権が監督よりもプロデューサーの側にあるので、監督の思うように作れないケースが多いです。

 

クラウドファンディング映画の場合は、そもそも出資額が小さいため、出資者が内容には口を挟まない傾向にあります。「ねぼけ」の場合、出資者に対して「編集権はすべて壱岐個人に委ねられます。絶対いい映画にしますから、どうか僕を信じてついてきて下さい」というスタンスです。

 

オリジナルの脚本で、落語をテーマにする。監督・撮影・編集は全部、壱岐が行う。まずそういう説明を出資者にした上で、「それでも出資してくれますでしょうか?」という前提でプロジェクトを進めていきました。「信じてついてきてくれ」とか「絶対いいものにします」とか、そういう意気込みを出資者に伝えることが重要になってきます。

制作進行や環境は商業映画とまったく同じ


制作環境そのものは自主制作映画も商業映画も基本は同じです。

 

プロの俳優を使うことは可能だし、プロのカメラマンやハイエンド機材だって使える。自主制作で予算が無いから、ギャラは出ませんということもありません。「ねぼけ」も芸能事務所を通してきちんとギャラも払いましたし、税務署で源泉徴収税の手 続きもしました。撮影前には、万が一の事故に備えて、俳優スタッフ全員に保険もかけました。

 

プロダクションデザイン(制作体制)自体は商業映画とまったく同じ方法だったと思います。作品のクオリティを担保するために、何を捨てて何を活かすか、まだやれることはないかと、ずっと自問自答しながら作っていました。 映画に限らずアートも音楽も、自主制作の現場はクオリティを維持するために采配と選択の連続です。


【作品解説】ダリとディズニーの幻のコラボ「ディスティーノ(運命)」

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ディスティーノ / Destino

ダリとディズニーの幻のコラボレーションアニメ


概要


「デスティーノ(運命)」は2003年に、サルバドール・ダリとウォルト・ディズニー・カンパニーのコラボレーションとして制作された約6分の短編アニメーション作品です。

 

時間の神クロノスと恋を探しているダリアという少女のラブストーリー。ダリの絵画に影響を受けた少女ダリアがシュルレアリスティックな風景を介して踊り続ける内容ですこの作品は2003年の「アニメーション・ショー・オブ・ショー」で公開されました。

 

元々はウォルト・ディズニーとサルバドール・ダリのコラボレーション作品として1945年企画が立ち上がりました。しかし、その後戦争を挟んで中断。58年後にウォルト・ディズニー・カンパニーによって制作再開が始まったといいます。音楽はメキシコの作曲家アルマンド・ドミンゲスが担当。歌手にドラ・ラズが起用。

 

ダリとディズニーが計画していたのは、ジグムント・フロイトの研究である「無意識」から着想を得たアニメーションだったようです。

 

1945年暮れから1946年にかけての8ヶ月間、ディズニースタジオのスタッフの一人ジョン・ヘンチとサルバドール・ダリが二人で絵コンテを制作します。

 

しかし、ちょうどその頃のウォルト・ディズニー・カンパニーは第二次世界大戦時代の経営難に悩まされていたころで、制作が滞りがちになってきました。ヘンチはなんとか社内の関心を向けようと、約17秒のテストアニメーションを完成させたましたが、結局、予算問題でプロジェクトは頓挫。無期限活動休止となってしまったようです。

 

その後1999年になって、ウォルト・ディズニーの甥であるロイ・E・ディズニーが「ファンタジア2000」の制作に取り組んでいるときに、無期限活動休止状態になっている「デスティーノ」プロジェクトを発見し、プロジェクトは再び動き始めたようです。

 

制作はベイカー・ブラッドワースがプロデューサーを務め、フランスのアニメーターのドミニク・モンフリーがディレクターを担当しました。

 

●参考文献(翻訳元)

Destino-wikipedia

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壱岐紀仁インタビュー201602

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ファンディング前にしておくべき準備とは


無名のスタッフという状況でどう知恵を絞るか


ファンディングを開始する前の「ねぼけ」プロジェクトの基礎情報を整理すると、自分自身が有名な映画を撮影したこともなければ、有名な映画に出ている役者も一人もいない状態でした。全く無名の監督と俳優で投資魅力はほぼゼロの状態。つまり“無名である前提”でプロジェクトを進めないといけないわけです。

 

アレハンドロ・ホドロフスキー監督がクラウドファンディングを企画する場合だと、監督名こそが成功のカギになるわけです。ファンが元々たくさんいて、SNSでも多くの人と繋がっているから、自走で宣伝が広がり、資金がどんどん集まってきます。でも「ねぼけ」スタッフはみんな有名人ではありません。そこで知恵を絞らないといけなくなるわけです。

キャッチーなワードを洗い出す


そこで考えたことの1つは、自分が制作するコンテンツの中で誰もが知っているキャッチーなワードを探すこと。それが「落語」でした。ほかには「つかこうへい」。出演して頂いた俳優の中には、つかこうへいさんの門下生の方が多くいたんです。

 

そういう風に、誰もが知っているキャッチーなワードを洗い出していくことで、誰に向かってファンディングを呼びかければよいのかが分かってきます

 

つかこうへいさんは既に亡くなられていますが、つかこうへいさんの根強いファンの方は今でもたくさんいらっしゃいます。直接つかこうへいさんのコミュニティのところにファンディングの宣伝をすると「つかこうへいのところの劇団員がけっこう出てるぞ。一つ応援してみようか」というムードが生まれてきます。

映画「ねぼけ」では、入船亭扇遊など現役の大御所落語家が出演していることやロケ場所に鈴本演芸場が利用されていることなども大きな魅力。
映画「ねぼけ」では、入船亭扇遊など現役の大御所落語家が出演していることやロケ場所に鈴本演芸場が利用されていることなども大きな魅力。

出資者のメリットを考える


先に、クラウドファンディング映画と商業映画の違いとして、出資者に「応援したい」というムードを作ることが重要だといいました。問題はどうやって「応援したい」というムードを作るかです。ムード作りで重要なのは、出資者がこのプロジェクトに携わることで生じるメリットを提示しないといけません。

 

「壱岐というのがどんな作家であり」とか、自分の事だけを説明してもダメなんです。それは壱岐の事を知らない人にとっては、特に情報として価値はありません。無名の作家が自分の事に関する限定品リターンを付けても魅力はないわけです。「このプロジェクトは出資者のためのものなんです」と理解してもらうが重要になってきます。

 

具体的に「ねぼけ」の場合だと、落語業界であったり、神楽行事に関わる人達にとっては、活動の宣伝や活性化に繋がるというメリットがありました。

映画「ねぼけ」は宮崎新富町に伝わる新田神楽の幻想的な演舞をおさめた映画でもある。
映画「ねぼけ」は宮崎新富町に伝わる新田神楽の幻想的な演舞をおさめた映画でもある。

ハードウェアとソフトコンテンツで大きな差異がでる


 一方、携帯電話のケースとかカメラのレンズのようなハードコンテンツだと比較的資金が集まりやすいのですが、それは結局、ハードウェアは出資者自身が仕事や生活で使うものなので、出資のメリットが明確だからです。

 

 

映画やアートや音楽といったソフトコンテンツは、出資者にとって分かりやすいメリットが提示できませんから、ただ作家や作品の説明に終始するだけだと出資者に魅力が伝わらず、資金が全然集まらなかったというケースもたくさん見ました。本当に難しいんです、映画やアートや音楽は。


壱岐紀仁インタビュー201603

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ファンディングが始まったらすること


プロジェクトページを常に賑やかにする


ファンディングが実際に始まったら、まずプロジェクトページ編集に力を入れる必要があります。ページを開いたときに「何かワクワクする」「何か自分も参加したくなる」ムードが伝わるページを作ることが大事です。プロジェクトページは出資者にとって、企画の最初のタッチポイント(窓口)になります。

 

「リターン」商品の充実ももちろん大事ですが、 何よりも重要なのは、プロジェクトに参加したくなるムード作りです。人は本来的に寂しがり屋なんです。人は賑やかな場所に集まってきます。お祭りと同じ感覚です。イメージ的には「ねぼけ」のファンディングとは、 「ねぼけ祭」をやるので、みんなで映画という神輿をかついでもらえませんかという感覚を作ることにエネルギーを注ぎました。

 

プロジェクト立ち上げの時は、どんなプロジェクトであれ0円からスタートする以上、応援者は一人もいない状態です。それでも虚勢でもいいから、賑やかな環境を作る努力と営業と、そのための施策が必要になります。

映画「ねぼけ」のファンデングページ。
映画「ねぼけ」のファンデングページ。

現在の投資金額を0円にしない


一般的に、人がファンディングページを開いたときに見るのは、トップの写真と最初のコンセプト、リードぐらいのものです。次に「現在、お金どのぐらい集まっているのだろう」というのを確認します。

 

このときに、0円にしないのが非常に重要です。「あっ、応援する人がいないんだ」と分かると、人はそこから出資意欲はかなり低下し、ファンディングの企画内容までは見てくれません。「けっこうお金が集まってるな。面白そうだな」と感じて、初めてスクロールしてページを閲覧してくれるようになります。

 

お金が集まってないプロジェクトって、人からみたらやる気がないように見えたりします。本気でやっているのかと。応援したくなるような、盛り上がっているムードを醸成しないと、出資者には参加してもらえません。だから最初は、恥ずかしい話ですが、自分自身で 5万とか10万とかファンディングしていました。

 

でも、ある程度波に乗ってしまえば、面識のない方でも友達経由で間接的に広がっていきやすくなります。実感として、応援は伝染していくものだと感じました。

ファンディング中は営業をする


よく聞かれるのですが「なんであんなにファンディングがうまくいったの?」と。普通に営業しただけなんです。

 

僕と主演で落語の現場に顔を出して、ファンディングの話をするわけです。宴席や打上げにも積極的に参加して、落語に来るお客さんにもチラシを渡して、1円でいいのでどうか応援お願いしますって頭を下げていました。

 

そういう “普通の営業”をファンディングする人の多くができてないと思います。お金を集めるということは、アーティストである前に、社会人であらねばなりません。出資者に、礼儀を尽くすのは当然のことです。

 

ちょっとした飲み会やトークイベントのときにチラシや企画書を準備してお客さんに渡せないとダメです。常に資料を持っていて、その場で現在進行形のプロジェクトであることを相手に実感させること。

 

現在進行形の企画であることが伝わると、直に監督や俳優と会うのですから、やっぱりTwitterやFacebookで「今、彼は何々をしているらしいね。ちょっと楽しみだ」とつぶやいてくれたりします。結果、それが膨大な広告費を使わずに出来る宣伝になるわけです。

営業日誌をウェブ上にアップする


クラウドファンディング中で特に重要になるのが営業日誌です。今日はどこへ取材に行きましたとか、今日は何々をしましたとか、自分の近況をできるだけアップデートする。

 

営業訪問先の人は自分の事が記事されてアップされていると、それはやっぱり嬉しいものなんです。出資者もプロジェクトの一員として関わっている事に実感が出てくるわけです。「自分がこのプロジェクトの制作に関わっているのだな」という感情を起こさないと、心は動きません。

 

あなたはお金だけ出してくださいという態度では、人の心は動きません。出資者に「僕たちは外からだけで、結局あなたたちが好き勝手やるだけなのね」と思われたら、その人はわざわざ出資しようとは思いませんよね。作品の内容を伝えることばかりに縛られて、社会人としての常識を忘れては、人もお金も、1ミリだって動かせません。

 

ファンディングはお金を集める行為である以上、それはもう “事業”なんです。その自覚と覚悟を持てるかどうか、それがファンディング成功の鍵となります。

映画「ねぼけ」は営業日誌が頻繁にアップデートされてるのも特徴。
映画「ねぼけ」は営業日誌が頻繁にアップデートされてるのも特徴。

さまざまな業界の人々を交錯させて盛り上げる


「ねぼけ」は、クラウドファンディングの企画の中でも、すごく盛り上がった企画のひとつだったのですが、これは壱岐という名前で盛り上がった企画ではないんです。「ねぼけ」というプラットフォームで「落語」や「神楽」 など、さまざまな業界の人々が交錯して盛り上がった企画です。

 

作家の角田光代さんからコメントが頂けましたが、落語ファンは角田さんがコメ ントで褒めてくれたらうれしいわけです。すごい作家が落語をほめてくれたと。異業界の著名人が落語業界のことを褒めるのは、落語ファンにとっては客観的な意見になりますから、『話題』が生まれます。

 

そういうクロスオーバーのプラットフォームをうまく作っていくことで、企画に参加している人達の気持ちはヒートアップしていきます。異業種デスマッチの空気感といいますか。プロレスも正統派と正統派が戦うよりも、ヒールレスラーや外部団体と戦うときの方が断然盛り上がっていきますよね。映画作りも同じように、身内のため映画にならないようにしないといけません。

 

身内や自分が立っている業界の外側にいる人たちを、一人一人 丁寧に、時に大胆に巻き込んでいけるかが、ファンディングを進めていく上で重要になると思います。

映画「ねぼけ」では、作家、歌手、古書店店主、写真家などさまざまな業界の人からコメントを寄せられている。
映画「ねぼけ」では、作家、歌手、古書店店主、写真家などさまざまな業界の人からコメントを寄せられている。

壱岐流ファンディング成功のポイント


  • 出資者に「夢を見させる」企画を作ろう
  • 誰もが知っているキャッチーなワードを洗い出そう
  • プロジェクトページは「お祭り」のように賑やかにしよう
  • ひたすら営業しよう
  • 営業日誌を頻繁にアップデートしよう
  • さまざまな業界の人達をクロスオーバーさせよう

劇場情報


新宿ケイズシネマにて12月17日(土)より劇場公開 モントリオール世界映画祭正式出品

◆映画「ねぼけ」公式サイト
東京

ケイズシネマ(2016年12月17日〜2017年1月13日迄公開)

大阪 第七藝術劇場(2017年ロードショー)
京都 京都みなみ会館(2017年ロードショー)
愛知 シネマスコーレ(ロードショー)
宮崎 宮崎キネマ館(2016年10月15日〜10月28日迄公開)

   

【作品解説】サルバドール・ダリ「カタルーニャのパン」

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カタルーニャのパン / Anthropomorphic Bread

パンと男性器のダブルイメージ


「カタルーニャのパン」(1932年)
「カタルーニャのパン」(1932年)

概要


「カタルーニャのパン」は1932年にサルバドール・ダリによって制作された油彩作品です。

パンはダリにとって最も古くからのフェティシズムの題材の1つ。ダリはパンに強いこだわりを持ち、パンを男性器に置き換えた表現をよくしています。

 

この作品で描かれたパンは、その形状からして男性器を暗示しているのは明らかです。はじめにみたときはバナナかと思いましたが、硬くなったパンだそうです。なぜ硬くなったパンなのか。それは、パンも男性器もはじめは柔らかくしだいに硬くなっていく点で同じなためです。

 

ダリはパンと男性器をダブルイメージし、偏執狂的批判的方法で描いているのです。

 

また、ペンとインク壺は、フロイトによれば男性と女性を象徴しているそうです。次第に硬くなったパンの上には「記憶の固執」でもお馴染みのフニャフニャになった時計がかかっています。またパンの塊を固く結んで垂れ下がらないようにしている紐は、ダリの性的不能に対する不安を示したものでしょう。

 

このような柔らかいもの(時計)と硬いもの(パン)との対立は、ダリのなかでは、幼児期への退行と性の未分化の状態という主題と結ばれる。

 

●参考文献

・上野の森美術館「ダリ回顧展」図録

西洋絵画の巨匠 (3) ダリ

One Surrealist A Day

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【作品解説】サルバドール・ダリ「茹でた隠元豆のある柔らかい構造(内乱の予感)」

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茹でた隠元豆のある柔らかい構造(内乱の予感)

Soft Construction with Boiled Beans(Premonition of Civil War)

スペイン内乱を的中させた予言的作品


「茹でた隠元豆のある柔らかい構造(内乱の予感)」(1936年)
「茹でた隠元豆のある柔らかい構造(内乱の予感)」(1936年)

概要


「茹でた隠元豆のある柔らかい構造(内乱の予感)」は、1936年にサルバドール・ダリによって制作された油彩作品です。フィラデルフィア美術館が所蔵しています。

 

ダリによれば、迫りつつあるスペインの内戦の不安を表現したもので、実際にこの作品が描かれた「スペイン内乱」が勃発しました。ダリの不安事に対する予言力が発揮された作品で、ダリは理性で考えた未来よりも、潜在意識・無意識におけるイメージの予言力の高さを認識したといいます。

 

ダリは予言を証明するために、戦後、タイトル「内乱の予感」に変更したといわれています。1936年制作とされているが、最近の研究では1934年制作という説もあるようです。

 

ほかに予言力を発揮した有名作品では、「新人類の誕生を見つめる地政学の子供」があり、第二次世界大戦後のアメリカ繁栄の時代を見事に的中させました。

 

手と足だけの奇妙な怪物が、首と足と乳房だけの怪物とレスリングをしているような不思議な作品。二体のように見えますが、実際は1つの身体内であり、これは自己分裂を起こし始めているという状態だそうです。

 

怪物の手足や指先が茹でたインゲン豆に見えることから、この題名が付けられており、今にも弾けだそうとするインゲン豆と今にも起こりそうな内乱をダブルイメージとして表現しています。

 

怪物は木や茶色の箱の上に立っています。背景の空は曇りががっており、いくらかは暗い部分があるが、それも迫り来る不安を表現しているようです。

 

わかりづらいですが、画面左下の背後にいるひげ面の人物は、科学雑誌に掲載されていた「心臓マッサージ器の実地指導をしている医師」のイラストから引用されており、内戦へと向かいつつあるスペインの様子を診断するダリ自身やジグムント・フロイトを象徴しているようです。

スペイン市民戦争が発生する2年前の1934年、ダリとガラはゼネストやカタルーニャ分離独立派の武装蜂起の影響を受け、カタルーニャに閉じ込められてしまいます。そのときにスペインの内乱を予感したといいます。その後、2人はパリへ逃亡し、そこで結婚します。

 

ダリとガラをパリへ誘導してくれた護衛は、2人をパリへ誘導したあとスペインに戻り、スペイン市民戦争で戦死しました。

 

内戦後、ダリがスペインに戻るとポルトリガトにあった家は戦争で破壊されてしまい、また妹のアナ・マリアは共産主義兵士たちに投獄され拷問を受け、学校以来のダリの友人である詩人のフェデリコ・ガルシーア・ロルカは、ファシストによって銃殺されたことに大変なショックをうけたといいます。

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【作品解説】サルバドール・ダリ「雨降りタクシー」

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雨降りタクシー / Rainy Taxi

マネキンと自動車を使った超現実オブジェ


概要


「雨降りタクシー」は、1938年にサルバドール・ダリによって制作された巨大超現実オブジェで、腐ったマネキンが乗車したタクシーです。オリジナル版の改造版が現在、スペインのカタルーニャ、フィゲラスにあるダリ劇場美術館に常設展示されています。

雨が降るタクシー車内に不気味なマネキン


「雨降りタクシー」は、パイプシステムで雨が降るようになっているタクシー車内に何百匹ものカタツムリをはわせたマネキンが乗っているという設定です。

 

本物の車に二体のマネキンが乗車していました。運転者の男の頭はサメにかみつかれたような状態になっています。後席にはイブニングドレスを着用し、髪が乱れた状態になっている女性が座っています。彼女の身体にはカタツムリがたくさんはっており、周りにはレタスやチコリーの葉が巻き付いています。

パリ国際シュルレアリスム展出品作


本作は、1938年にパリのボザール画廊で開催された「シュルレアリスム国際展」の出品作品です。この企画の主催者はアンドレ・ブルトンとポール・エリュアール、マルセル・デュシャンは展示デザイン、そしてダリは特別顧問でした。

 

画廊の廊下にはシュルレアリストたちが制作した16体のマネキンが展示され、ダリのマネキンが乗車したタクシーである「雨降りタクシー」は会場入口に設置されました。

パリ国際シュルレアリスム展会場入口。
パリ国際シュルレアリスム展会場入口。

【作品解説】サルバドール・ダリ「メイ・ウエストの唇ソファ」

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メイ・ウェストの唇ソファ / Mae West Lips Sofa

女優メイ・ウエストの顔を家具化


概要


「メイ・ウエストの唇ソファ」は、1937年にサルバドール・ダリによってデザインされた超現実家具。実際の制作は家具職人でダリはデザインを担当。ハリウッド女優メイ・ウエストからインスピレーションを受けて制作。86.5 x 183 x 81.5 cm。20世紀で最もセンセーショナルな家具といわれています。

ダリの理想的女性メイ・ウエスト


メイ・ウエスト(1893年8月17日-1980年11月22日)とはアメリカの女優で、戦前アメリカのセックス・シンボルでした。マリリン・モンローのようなかんじです。

 

メイ・ウエストはほかの女優と異なり、大きな尻、曲線美、下品性、スキャンダル性などなど、ダリにとって理想の要素をあわせもつミューズだったといいます。そのため、彼女をモデルにした作品です。

 

メイ・ウエスト
メイ・ウエスト

シュルレアリスム家具


 「メイ・ウエストの唇ソファ」は、そのままでも相当シュールですが、特定の場所から見ることで、部屋全体がメイ・ウェストの顔のように見えるシュルレアリスム・インスタレーションの一部でもあるんです。

 

1934年から1935年にかけて、ダリは「メイ・ウエストの唇ソファ」の直接的なルーツとなる水彩画作品「メイ・ウエストの顔のシュルレアル・アパート」という作品を制作しています。これは1936年の「ロンドン国際シュルレアリスム展」で展示されました。

 

そのときに訪れた有名コレクターのエドワード・ジェイムズが、この水彩作品を大変気にいります。そして、ジェイムズはちょうど自宅の豪邸をリフォームしていた頃だったこともあり、ダリに「メイ・ウエストの顔のシュルレアル・アパート」の部屋を自宅に現実化してほしいと要請したようです。

 

ダリは当時相当経済的に困っていたため、ダリの一年間の生活費でジェイムズと制作の契約をしました。

「メイ・ウエストの顔のシュルレアル・アパート」
「メイ・ウエストの顔のシュルレアル・アパート」

ダリ劇場美術館で鑑賞できる!


「メイ・ウエストの唇ソファ」および「メイ・ウエストの顔のシュルレアル・アパート」は、現在、スペイン、カタルーニャにあるダリ劇場美術館で常設展示されています。ただし、こちらはオリジナルとは異なるバージョンだそうです。

 

Telegraphによれば、オリジナルの唇ソファは1つだけでなく5点存在するのですが、5点すべてをジェイムズが買い取りました。ジェイムズが1984年に亡くなる前に、1点はブライトン・アートぎゃらりが購入、もう1点はクリスティーズ経由で個人蔵となったようです。残り3点は、ロンドンのウエスト・ディーンにあるエドワード・ジェイムズ財団が所有しているといいます。

 

目は絵画、鼻はランプ、唇はソファで構成されています。

マリリン・モンローの唇ソファ


1972年にイタリアのデザイン集団「スタジオ65」は、ダリの「メイ・ウエストの唇ソファ」のオマージュ作品として、マリリン・モンローの唇をモチーフにした「ボッカリップソファ」というものを制作しています。ボッカとはイタリア語で唇の意味です。これは一般商品として購入可能です。


【作品解説】サルバドール・ダリ「レダ・アトミカ」

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レダ・アトミカ / Leda Atomica

ガラを浮遊する空間に形而上学的に描く


「レダ・アトミカ」(1947〜49年)
「レダ・アトミカ」(1947〜49年)

概要


「レダ・アトミカ」は1949年にサルバドール・ダリによって制作された油彩作品です。61.1 Cm × 45.3 Cm。フィゲラスのダリ劇場美術館が所蔵しています。

 

ベースにしているのは古代ギリシア神話の「レダ」で、白鳥と台座に座ったスパルタの神話の女王レダが描かれています。「レダ・アトミカ」では、レダはガラの肖像となり、ダリは白鳥に姿を変えて描かれています。彼女の周囲には本、卵、定規、2つの踏み台が浮遊しています。背景はおなじみのカタルーニャのカダケスの海外と岩です。

神話


神話の背景ですが、レダはスパルタ王テュンダレオースと結婚した夜、テュンダレオース王が眠っているときに白鳥に姿を変えたゼウスに犯されてしまいます。この二重婚姻問題が2つの卵を産むことになり、最初の卵から双子の兄弟カストールとポリュデウケースが、後の卵から双子の姉妹クリュタイムネーストラーとヘレネーが生まれました。

 

ダリは自分自身をポリュデウケースとみなし、死んだ兄をカストールとみなしました。また妹のアナ・マリアをクリュタイムネーストラーに、ガラをヘレナーとみなしています。

論理的構成で描かれた絵画


レダ・アトミカは厳格な数学的理論に基いて構成されています。レダと白鳥はダリが作成したいくつかのスケッチからなる5つの点(愛、秩序、真理、意志、言葉)を結んでできる五角形におさまるよう描かれています。その五角形は完璧性の象徴だといいます。この構図はローマ人数学者のマチャ・ガイカから影響を受けているようです。

浮遊する世界


 戦後、科学の研究に没頭し始めたダリは、物質界は固定した重い物質で構成されておらず、互いに浮遊した関係の孤立した物質によって構成されているという考えに取りつかれていました。「レダ・アトミカ」は、その頃に制作された作品で、あらゆるものが浮遊しているのが特徴となっています。

 

しかしこの絵で1つおかしいのは白鳥です。ほかの物質は浮遊しているため影があるのですが、白鳥には影が付いていません。それはこのダリ(白鳥)だけが物質でないことを暗示しており、ダリは自らを精神的存在とされています。そして、自身とガラとの精神的な結びつきを表現しています。

 

 

 

この絵についてはダリは、浮遊する空間上に形而上の女神であるガラを完璧な構図(五角形)で描くことに成功したと話しています。

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【作品解説】サルバドール・ダリ「ポルト・リガトの聖母」

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ポルト・リガトの聖母

The Madonna of Port Lligat

2種類存在するダリとガラの聖母子像


「ポルト・リガトの聖母」1950年 福岡市美術館所蔵
「ポルト・リガトの聖母」1950年 福岡市美術館所蔵
「ポルト・リガトの聖母」1949年 マーケット大学博物館所蔵
「ポルト・リガトの聖母」1949年 マーケット大学博物館所蔵

概要


「ポルト・リガトの聖母」は、サルバドール・ダリによって制作された絵画作品。作品のもとになっているのはピエロ・デッラ・フランチェスカ作「天使と六聖人と聖母子」です。また、全体を緻密な遠近法で仕上げルネサンスの宗教画のもつ荘厳な雰囲気を再現しています。

 

フランチェスカ作と構図やポーズもほぼ同じですが、ダリ作品はオブジェクト全体が分離され浮遊した状態になっています。

 

この頃のダリは、若い頃激しく反発したカトリック思想に回帰し始めた頃で、またその一方で科学(特に原子爆弾や原子構造)に関心を持ち始めた時期の作品です。宗教への回帰と科学信仰という矛盾した状態を頻繁に表現していました。「レダ・アトミカ」などが代表的です。

ピエロ・デッラ・フランチェスカ「天使と六聖人と聖母子」
ピエロ・デッラ・フランチェスカ「天使と六聖人と聖母子」

「ポルトリガトの聖母」は2作品ある


「ポルト・リガトの聖母」は2作品あります。

 

最初の作品は1948年に制作された49 x 37.5cmの作品で、これはアメリカ合衆国ウェスコシン州ミルウォーキーのマーケット大学博物館が所蔵しています。この作品は1949年11月23日にダリがローマ法王ピウス12世に謁見する際に持参したものです。

 

 

もうひとつは1950年に制作されたもの。同タイトル、同テーマで制作され、ポージングや描くモチーフが多少異なったものとなっています。大きさは275.3x 209.8cmで、日本の福岡市美術館が所蔵しています。1作目にくらべて拡大に巨大で完成に5ヶ月かかっています。あまりに巨大で展示の際にエレベーターや階段で運べなかったため、ロープを使って6階にあるカーステーアズ・ギャラリーに引き上げたそうです。

大きな違いはマリア像


1作目と2作目の大きな違いは、1作目が聖母マリアそのものを描いているのに対して、2作目はガラを聖母マリア化して描いていることです。

 

彼女の膝に座っているキリストは、両作ともダリをイメージしていると思われます。実はいうと1作目もガラを描こうとしていたのですが、謁見予定のローマ法王にとっては、極めて悪趣味で神を冒涜する行為にあたりそうだったので、ダリが法王を配慮して描き変えたものだと思われます。

 

両作とも中央絵に描かれているマリアの胸の部分が長方形に切り抜かれ、切り抜かれた部分にキリストが描かれています。しかし、2作目の方はキリストの胸の部分も切り抜りぬかれ、パンが描かれています。

ポルトリガトの生物が描かれている


背景はスペインのカタルーニャのポルト・リガトの海岸です。絵の中描かれている、魚、貝、卵といった食べ物や生物は、ダリやポルト・リガト地域と縁の深い食べ物のようです。

 

1作目の方にはウニが描かれていますが、2作目の方にはウニがなくなり代わりにサイが描かれているなど微妙な違いがあります。

 

1作目左下部分。
1作目左下部分。
2作目左下部分。
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【作品解説】サルバドール・ダリ「水面に象を映す白鳥」

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水面に象を映す白鳥 / Swans Reflecting Elephants

最も有名なダブル・イメージ作品


「水面に象を映す白鳥」(1937年)
「水面に象を映す白鳥」(1937年)

概要


「水面に象を映す白鳥」は、1937年にサルバドール・ダリによって制作された油彩作品。51Cm×77Cm。「ナルシスの変貌」と並んで、偏執狂的批判的方法(ダブルイメージ)で描かれた代表的な作品として知られています。

 

一見すると、三羽の白鳥が水辺に佇んでいる絵画ですが、水面に反映した白鳥の姿は象に見えるというものです。また、白鳥の後ろに描かれた枯れた木々は水面に反映して象の足の部分になっています。

 

背景はスペイン、カタルーニャの秋の荒涼とした風景。湖を取り囲むグロテスクな渦を巻いた崖の描写は、水面の静けさと対照的になっています。崖にはポケットに手を入れて佇んむ男性がいますが、おそらくこれはダリのポートレイトで絵全体はダリの心象風景を描いているのでしょう。


サルバドール・ダリ「白い恐怖」の夢のシーン

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白い恐怖 / Spellbound

ヒッチコックの映画にダリが協力


概要


「白い恐怖」は1945年にアルフレッド・ヒッチコック監督によって制作されたサイコスリラー映画ですが、この作品の制作背景にダリが協力。ダリはこの映画のために5つの背景スケッチを制作しています。

 

1945年ダリは第2次世界大戦の戦火を避けて、アメリカのハリウッドへ避難していました。そこでサスペンスの巨匠アルフレッド・ヒッチコックや主演のグレゴリー・ペック、女優のイングリッド・バーグマンと出会い、映画制作に協力します。当時、ヒッチコックはこれまでの映画には存在しない強烈な夢のイメージが欲しく、そこでダリ作品がヒッチコックにとってぴったりイメージだったそうです。

 

最も有名なのは、巨大な目玉を巨大なハサミで切り裂くシーン。ほかにも、映画全体を通してダリ作品をモチーフにしたさまざまな演出が現れ、約2分程度、ダリ的な要素のシーンが現れます。



【作品解説】サルバドール・ダリ「自らの純潔に獣姦される若い処女」

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自らの純潔に獣姦される若い処女 / Young Virgin Autosodomized By Her Own Chastity

妹に対する批判


「自らの純潔に獣姦される若い処女」(1954年)
「自らの純潔に獣姦される若い処女」(1954年)

概要


「自らの純潔に獣姦される若い処女」は、1954年にサルバドール・ダリによって制作された油彩作品。40.5 Cm × 30.5 Cm 。ダリ後期の代表作の1つ。描かれている女性は妹アナ・マリア。この作品は1949年にアナ・マリアが出版した『妹が見たサルバドール・ダリ』と関係が深い作品です。

 

アナ・マリアは兄が1942年に出版した自伝『我が秘められた生涯』を読み、かつてのダリ家の生活について、ダリがあまりにも自分勝手で、いいかげんな事を書いているのに心を痛め、ダリ家の真実を『妹が見たサルバドール・ダリ』で暴露しました。

 

自らを神格化していたダリは、妹の本の内容に怒り、復讐するように制作した作品がこの作品です。本作は、1925年に同じ構図で同じ妹をモデルにした作品「窓辺の少女」の発展バージョンとなっており、サイの角の尖端と女性の尻がダブル・イメージで描かれています。ダリはこの絵について「パラドックス、エロティックに描かれているが、最も純潔である」とコメントしています。

 

またダリは、自然科学や数学に対して興味を抱き始めた時期であり、サイの角状のモチーフを主題とした作品をよく描いており、本作にも描かれています。

 

なお、この絵のモデルはガラといわれてますが、実際はガラの体型とかなり異なることもあり、1930年代のアダルト雑誌の写真を元にして描いているといわれています。

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エスパス・ダリ・モンマルトル

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エスパス・ダリ・モンマルトル

パリにある彫刻と版画中心のダリ美術館


彫刻と版画作品を中心に300点以上のダリ作品!


エスパス・ダリ・モンマルトルはフランスにあるサルバドール・ダリの美術資料館。パリのモントマルトル地区テルトル広場の近くにある。特に彫刻と版画作品に焦点を入れており、300点以上のオリジナル作品を収蔵している。目玉作品は「宇宙象」と「アリス・イン・ワンダーランド」の彫刻作品。ほかには「モーゼと一神教」「記憶の記憶」「ドン・キホーテ」などを収蔵している。ダリ作品に気軽に触れるための子どものためのワークショップも開催。

 

公式サイト:http://daliparis.com

収蔵作品紹介ページ:http://daliparis.com/fr/Galerie-d-Art/la-collection-de-sculptures-galerie

「時間の貴族」
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アリス・イン・ワンダーランド
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宇宙像
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【作品解説】サルバドール・ダリ「聖アントワーヌの誘惑

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聖アントワーヌの誘惑 / The Temptation of St. Anthony 

性の誘惑と不安


「聖アントワーヌの誘惑」(1946年)
「聖アントワーヌの誘惑」(1946年)

概要


「聖アントニウスの誘惑」は、1946年にサルバドール・ダリによって制作された油彩作品です。ダリの「古典主義時代」「ダリ・ルネサンス」の代表的な作品として知られています。現在、ベルギー王立美術館が所蔵しています。現在、ベルギー、ブリュッセルにあるベルギー王立美術館が所蔵しています。

 

本作には多くのシュルレアリティックな要素が含まれていまが、基本的には天国と地球の中間への関心が表現されています。 

聖アントワーヌの誘惑は西洋芸術史の代表的な主題


 手前で十字架を掲げる男性は聖アントワーヌである。聖アントワーヌは荒野で修行するが、そのときさまざまな誘惑に悩まされる。それに打ち勝とうとしている光景を描いています。

 

 

砂漠のような風景。空は青く、またどんよりとした黒い雲が迫りつつある。左下に聖アントニウスがひざまついて、十字架をかざしている。足元にはドクロが転がっており、聖アントニウスが十字架をかざす前方には宇宙象や宇宙馬のパレードが描かれている。宇宙象たちは「誘惑」を表す象徴的なアイテムを背中に背負っている。

 

聖アントワーヌは、ダリだけでなくボスをはじめ、西洋美術史や文学史を通じてさまざまな芸術家によって表現されてきました。ダリも古典的な西洋美術やの主題にシュルレアリスムをもって挑戦したといえるでしょう。

ヒエロニムス・ボス「聖アントワーヌの誘惑」
ヒエロニムス・ボス「聖アントワーヌの誘惑」
ポール・スザンヌ「聖アントニヌスの誘惑」
ポール・スザンヌ「聖アントニヌスの誘惑」
マックス・エルンスト「聖アントニヌスの誘惑」
マックス・エルンスト「聖アントニヌスの誘惑」

誘惑に対する弱さと禁欲と霊的なもの強さを同時に表現


一番手前の描かれている馬は均整のとれた逞しい体で描かれていますが、その後ろの象はその大きな体型に比べて足は蜘蛛のように細く不自然な体型になっています。

 

また象の背中にある金の器の上には裸の女性が載っています。これは、ダリの性に対する興味と不安の両方を表現しているのでしょう。

 

その後ろに続く象たちも先頭の象と同じように背中にさまざまな建築物を背負っています。縦長の塔のようなオベリスクを背負った象は、バロック時代のイタリアの彫刻家であるジャン・ロレンツォ・ベルニーニの彫刻「ミネルバ・オベリスク」から影響を受けたもので、1948年作の「象」をはじめ、ダリ作品によく現れます。これはダリの場合、男根を暗喩しています。

 

また、その後ろの雲がかかって一部垣間見える建物は、エル・エスコリアル修道院が見え隠れします。ここにダリの霊的なもの精神的なものへの敬愛が表現されており、それが十字架を掲げ、目の前に現れる誘惑への自己の弱さと同時に、かたくなに誘惑を拒否する聖アントニヌスの姿で表現されています。

ベルニーニのオベリスクを背負った象の彫刻。
ベルニーニのオベリスクを背負った象の彫刻。
スペインのエル・エスコリアル修道院
スペインのエル・エスコリアル修道院

映画での公募作品だった


 本作は、デビッド・L・レーブとアルバート・ルーウィンが制作した映画『ベルアミの個人的な仕事』で使用予定だった「聖アントニウスの誘惑」の絵の公募に応じて制作されたもののだった。ダリは公募に参加したが、最終的に映画で使われることはなかったようです。

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サルバドール・ダリとエヴァンゲリオン

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サルバドール・ダリとエヴァンゲリオン

まるでそっくり!エヴァとダリの世界観



人気アニメ「新世紀エヴァンゲリオン」には、ダリの絵画を基にしたと思われるカットが多数現れます。

 

たとえば、ダリの「十字架の聖ヨハネのキリスト」は上空からイエス・キリストの「磔刑」を見下ろすという当時としては画期的な構図の絵ですが、エヴァンゲリオンにおいても初号機がはりつけられ上空から見下ろす構図が現れます。

 

さまざまなダリとエヴァの類似性をまとめた動画「サルバドール・エヴァ」がありますのでぜひ参考にしてみてくだい。個人的には、偶然の類似ではなく、明らかにダリの世界観を参考にしていると思っています。


【作品解説】サルバドール・ダリ「象」

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象 / The Elephants

地上におけるどんな権力も宇宙では無力だ!


「象」(1948年)
「象」(1948年)

概要


「象」は、1948年にサルバドール・ダリによって制作された油彩作品。現在、プライベートコレクションとなっています。

 

“宇宙象”というダリが作った足の長い象は、「聖アントワーヌの誘惑」「目覚めの一瞬前、ザクロの実のまわりを一匹の蜜蜂が飛んで生じた夢」など、さまざまな作品に現れるダリの代表的なイコンの1つです。ほかに宇宙象が現れる代表的な作品としては、1946年に描かれた「聖アントワーヌの誘惑」があり、こちらの作品で初めて宇宙象が誕生したといわれれています。

 

本作では、これまでの作品ではあくまで脇役だった宇宙象が主題として扱われています。原題は「The Elephants」です。

 

強さと弱さを同時に表現してる


象は世界中のさまざまな場所や神話において、「支配」「強さ」「重さ」「権力」などを象徴するシンボルとして利用されてきました。しかし、ダリは「欲望がほとんど見えない多関節の足」として、力のシンボルである象に細長いひょろっとした、ほとんど蜘蛛のような足を付け加えて、強さと弱さの対比を表現しようとしました。

 

また、象の背中に巨大なオベリスク(古代エジプトの記念碑のようなもの)を背負わせることで、ひ弱な足と強度な背中のコントラストを強めています。なお、象が背負ってるオベリスクはバロック時代のイタリアの彫刻家であるジャン・ロレンツォ・ベルニーニの彫刻「ミネルバ・オベリスク」からの引用です。

 

 

しかし、この象をよく見ると、ほとんど足に地が付いておらず、むしろ浮遊しているように見えます。ダリが“宇宙象”という名前を付けて浮遊させているように描いている理由として「宇宙の無重力空間ではずっしりした重みの象でも軽々と浮いてしまうものだから」と話しています。「地上における権力(強さ)」と「宇宙における無重力(無力)」の対比を表現したかったのだといいます。

●参考文献

The Elephants-Wikipedia


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